自由気ままでのんびり屋。ふだんからササばかり食べている「草食男子」のパンダ君をその気にさせて、子どもをつくらせるためには、やっぱり好きな相手を選ばせるのが一番。そんな当たり前の研究成果が、中国と米国の合同チームによって2015年12月15付の英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(電子版)に発表された。
「何を今さら」と思う人が多いだろうが、絶滅の危機に瀕しているジャイアントパンダを飼育下で繁殖させるのは大変。飼育下のオスの約10%しか繁殖能力はないといわれる。メスが発情して交尾する期間は年に2~4日しかないため、性欲が細いオスをそのタイミングに合わせるために、世界中の動物園は知恵を絞ってきた。オスに動物バイアグラを飲ませたり、「パンダ・ポルノ」を見せたりする例さえある。
パンダの交尾シーンの映像を集めて編集、オスに見せる
パンダ・ポルノは、タイのチェンマイ動物園専属の動物行動学者が2006年に考案した、パンダの交尾シーンの映像を集めて編集し、オスに見せるというもの。大規模なパンダ繁殖センターがある中国に伝わり、開始後10か月で31頭が生まれた実績があるが、他の国では成功例は報告されていない。発祥地のチェンマイ動物園では、逆にパンダが見せられるのを嫌がり、人間のポルノを見せたところ、音にだけは反応したという。
このため、中国以外では、日本の上野動物園をはじめ、人工授精に頼る例が多かった。
今回発表された論文によると、繁殖方法は非常にシンプルなものだ。中国・四川省にあるパンダ保護研究センターを実験の場に使った。まず、複数のオスとメスを隣り合わせの囲いに分けて入れた。オスとメスとの間には柵があり、触れることはできない。この状態で互いの「関心度」や「好感度」を観察して、交尾しそうかどうかをチェック。
人間が外から心配するより、直接合わせた方がいい
パンダのパートナー選び行動には、様々な遊びや絆を結ぼうとする行為、逆に無視したり攻撃したりする行為があり、見かけによらず複雑だ。研究チームは、結局、好みの相手と好みではない相手の両方とを対面させた。その結果、「オスとメスの双方が相手に好感を持った場合に、もっとも繁殖率が高かった」という。柵の外から人間があれこれ心配するより、直接合わせた方がいい、という単純な結果だった。
論文では、結論として、「これまで飼育下の繁殖計画の中で、繁殖相手の好みの問題を大きく取り上げてこなかったことは驚くべきことだ」と述べている。
「デリカシーがないなあ~、人間は!」とパンダ君の方が驚いているかもしれない。