世界的な株安の影響なのか、郵政株がさえない。NISA(少額投資非課税制度)口座を利用する投資初心者をはじめ、個人投資家に大人気で、一部では過熱感が伝えられていたのに、最近は話題にものぼらなくなってきた。
振り返れば、NTT株の売り出し価格は119万7000円だった。初値は160万円で、2か月半後には売り出し価格のじつに約2.6倍にあたる318万円の高値を付けた。郵政株が「政府放出株の最後にして最大の案件」と、鳴り物入りで東証1部に上場したのが2015年11月4日。どうも、NTT株のような暴騰劇とはいかないかもしれない。
かんぽ生命株、最高値から3割の急落
日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の郵政3社株の売り出し価格は、日本郵政が14万円、ゆうちょ銀行が14万5000円、かんぽ生命は22万円(3社とも最小売買単位は100株)で、個人投資家が3社分の株式を購入した場合は合計50万5000円が必要だった。
上場初日(2015年11月4日)、日本郵政が1631円、ゆうちょ銀行は1680円、かんぽ生命は2929円の初値を付けた。買い注文が優勢で、なかでもかんぽ生命は株数が他の2社より少ないこともあって品薄感が広まり、その日の終値で3430円を付け、初値から約500円(17.1%)も値上がりしていた。
ゆうちょ銀行(上場来高値1823円)とかんぽ生命(4120円)の株価は、その翌5日にそれぞれ上場来高値を付け、日本郵政株は15年12月7日に1999円の高値を付けるなど、相場の格言にある「初物は買い」のとおりのスタートダッシュを決めた。
ところが、2016年1月8日の終値は、日本郵政株が前日比9円安の1792円、ゆうちょ銀行株は36円安の1627円で、いずれも3日続落。かんぽ生命株は7日続落で、2016年1月6日に3000円を割り込み、8日は前日比45円安の2861円で引けた。
しかも、ゆうちょ銀行株(1623円)とかんぽ生命株(2832円)は上場後の安値を更新。11月下旬以降から「下げ」の傾向が目立っていたが、とうとう初値をも下回ってしまった。最高値から、日本郵政株とゆうちょ銀行株がともに約10%、かんぽ生命株はじつに約30%もの下落だ。
郵政株は3社とも、売り出し価格はなんとか上回ってはいるものの、上場後に株式を買った個人投資家の中には含み損を抱えてしまった人がいるというわけだ。
ある個人投資家は「IPO株は初値売りで、すぐ手放す」との格言どおり、「上場直後に売っちゃいましたよ」といって、ほくそ笑む。
じっくり構えて、配当で儲ける手も・・・
今回初めてIPO(新規上場)株を買ったという、ゆうちょ銀行株を購入した別の個人投資家も「翌日1800円に乗ったときに売りました」と話す。買ったときから、「3%も上がらないのでは」と、読んでいたという。
上場前、郵政株はかつてのNTT株を思わせる熱気が漂っていたが、その一方で郵政株が内需関連株であることを理由に、「ビジネスの成長性に乏しい」、また市場売買の約6割を占め外国人投資家が冷ややかだったことから「上値は限られてくる」との指摘があり、株価の高騰を懐疑的に見る向きもあった。
その個人投資家は、「まだ持っている人は最初から売るつもりがない、長期保有の配当狙いなんじゃないですか」とみている。
もちろん、株式を保有する個人投資家がすべてキャピタルゲインを得ようとするわけではない。むしろ一般的には、個人投資家は長期保有することで配当利益や株主優待を得るという人が少なくないとされるのだ。
日本郵政とゆうちょ銀行は、売り出し時から純利益の50%以上を株主に配当する方針を打ち出し、かんぽ生命も30~50%程度とする、としていた。配当を高めることで長期保有してもらうのが狙い。その結果、「かつての電力株のように預貯金代わりに購入した人もいる」という。
売り出し価格で買った個人投資家は、いま売ればまだ損はしない。また、インデックスファンドの買い需要が大きいという、株価の上昇要因がないわけではない。早ければ2016年夏ともいわれる追加売り出しに向けた上昇期待もある。現在の株式市場は軟調だが、アベノミクスの成長戦略や2020年の東京五輪需要なども株価の押し上げ要因だ。こうなると、どっしり構えて再度値上がりを期待しつつ、気長に待つというのもありかもしれない。