ロシアのプーチン大統領が、右手をほとんど振らず、胸元付近に置いて歩くのは、「西部劇のガンマンのように右手で素早く銃を抜くためである」という驚きの研究が2015年12月、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」のクリスマス号に発表された。
研究結果は、ポルトガルとイタリア、オランダの神経科医たちが国際協力でまとめたもの。同誌のクリスマス号は毎年ユニークな論文を掲載することが恒例になっている。
「スパイに憧れた」KGB諜報員時代の訓練のせい?
研究チームの医師たちは、歩き方や姿勢から健康障害の前兆を読み取る専門家ばかりで、プーチン氏の独特の歩き方に、潜在的な病気があるのではないかと以前から強い関心を持っていたという。
プーチン氏が歩いている映像を集めて分析すると、左腕は普通に振っているが、右腕はほとんど動かさない。胸元近くに置き、腰だめをして周囲に鋭い眼光を飛ばしながら歩く。こうした非対称的な歩き方は、パーキンソン病によく見られる特徴だ。しかし、震えや硬直など他の麻痺症状がみられないことからパーキンソン病の可能性は捨てられた。
次に、プーチン氏の経歴を調べ、面白いことに気づいた。プーチン氏は、国立レニングラード大学を卒業後、「スパイに憧れて」旧ソ連の国家保安委員会(KGB)に就職した。そこで、研究チームは「独特の歩き方は、武器使用の厳しい訓練で身につけた所作ではないか」という仮説をたてた。
KGBの訓練マニュアルを入手すると、歩き方の心得として、「右手に持った銃を胸の近くに引き寄せたまま、体の左側を進行方向に少し向けた状態で前進せよ」とあった。敵が襲ってきた時、素早く銃を抜けるようにするためだ。
メドベージェフ首相が同じ「ガンマン歩き」をする理由?
さらに、他のロシア政府高官の映像も調べると、4人が「ガンマン歩き」をしていることがわかった。メドベージェフ首相、セルジュコフ前国防相、イワノフ元国防相、シドロフ西部軍司令官である。このうち、イワノフ氏はプーチン氏と同じKGB出身、セルジュコフ氏とシドロフ氏は軍務の経験がある。
しかし、メドベージェフ首相は、経歴にKGBや軍とのつながりがない。それなのになぜ、「ガンマン歩き」をするのか。論文では「メドベージェフ首相には明らかに神経疾患の兆候はなかった。上司であるプーチン大統領の歩き方を真似しているとしか考えられない」と推測している。
調査結果について研究チームのリーダー、オランダ・ラドバウド大学のバスティアーン・ブルーム教授はこう皮肉っている。
「武器の訓練に伴い、腕の振りが抑えられる例はほかにもあります。西部劇に出てくるカウボーイがそうです。私たちはこの歩きを『早撃ち名人歩き(ガンスリンガー・ウォーク)』と名付けました。プーチン氏の場合、右腕を動かさないのは過剰に会得された訓練の結果でしょう。まるで、『ほら、俺はKGBで鍛えられた本物の男だ』と言っているかのようです」
それにしても、こんな論文を発表して、「武の人」プーチン大統領を怒らせたりしないか心配になる。