少子高齢化による労働人口の減少やアベノミクスによる景気回復などの要因で、「正社員が足りない」と感じている経営者は少なくない。
実際、最近発表された厚生労働省の労働経済動向調査(2015年11月)でも、企業の労働者過不足判断指数(DI)は「過去最高」を記録。なかでも、建設業や運輸業などで正社員不足が強まっている。
5、6年前までは「正社員が過剰」と判断
労働者過不足DIは、正社員が「不足している」とした回答の割合から「過剰」との回答の割合を引いた指数(DI)で、四半期ごと(2、5、8、11月)に調査が行われている。
労働者過不足DIは、調査対象となった会社経営者の感覚的な判断を表す。たとえば、退職などで正社員に欠員が出ても「足りている」と感じていれば、経営者は「適当」あるいは「過剰」と答えるだろうし、求人を募集しても、求めている人材が採用できなければ、「不足」のままだ。
2015年11月1日時点の調査では、規模30人以上の2945事業所から回答を得た。その結果、正社員の労働者過不足DIは33ポイントとなり、前回調査(15年8月)から4ポイント上昇。18期連続の不足超過で、比較可能な1999年2月以降で最も高くなった。
これまでの最高は15年2月調査の31ポイント。5月は新卒採用後でもあり、不足感はやや薄まり28ポイントに下がったが、8月は29ポイントとなった。正社員は1年を通じて、高い水準の不足超過にあったことになる。
厚労省は、「この調査でいう『過去最高』というのは、『正社員が足りない』と感じている経営者が、これまで最も多かったということです」と説明する。
とはいえ、アベノミクスが起こる、ほんの数年前までは多くの会社経営者が「正社員は過剰」だと考えていた。
さかのぼると、厚生労働省の労働者過不足DIが「ゼロ」(「過剰」と判断した経営者の割合と「不足」と判断した経営者の割合が同じだったことを示す)だったのは2011年5月のこと。その中でも、建設業や製造業、卸・小売業、宿泊・飲食サービス、不動産業などの経営者の多くが「正社員は過剰」とみていた。
全産業が「過剰」と判断していたのは、2010年5月時点(マイナス3ポイント)にさかのぼる。
当時は、正社員をパートタイマーや派遣労働者などのコストの安い労働力に代替する、「コストダウン経営」が横行。ところが、最近では飲食店や小売店などでは正社員どころか、アルバイトさえ確保できずに店舗を閉鎖したり開店を延期したりしているほど、人手不足は深刻化している。アルバイトやパート従業員を正社員に「昇格」して、人材を確保しようという会社も現れている。それでも、まだ正社員は足りていない。