中国が南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)に造成した人工島が、運用を本格化させつつある。島内に完成した空港ではすでに複数回にわたって飛行試験が行われ、2016年1月6日には国営新華社通信が現場写真を配信した。かなり大規模な空港が建設されたことが分かる。
中国側は、試験飛行したのが「民間機」だという点を強調。周辺海域で事故があった際には「拠点があった方が救援に有利」とも主張し「平和利用」の側面をアピールしている。だが、軍用機が新空港を拠点にすれば中国が南シナ海の制空権を確保しやすくなるのも事実で、この「平和利用」は軍事利用の隠れ蓑に過ぎないとも言えそうだ。
海南島からチャーター機2機が2時間かけて飛行
人工島は、ファイアリー・クロス礁(中国名・永暑礁)に建設された。中国外務省が2016年1月2日に試験飛行を行ったことを発表したのに続いて、国営新華社通信が1月6日、同日行われた試験飛行の写真を配信した。
新華社通信によると、中国政府がチャーターした民間機2機が1月6日午前中、中国南部・海南島の海口(海南省)の空港を飛び立ち、約2時間をかけて人工島の空港に着陸。午後には海口空港に戻り、試験飛行は成功したと伝えた。記事では、
「今回の試験飛行成功で、この空港で民間の大型旅客機が安全に運航できることが示された」
として、空港が将来的には物資輸送や人の往来にも役立つと主張。新空港は「中国最南端の空港」だとも説明している。飛行機2機を前に関係者が横断幕を持つ記念写真や、飛行機が離発着する写真など計4枚の写真も配信された。試験飛行に使用されたのは、中国南方航空と海南航空の機体だ。そのうち中国南方航空機には写真に登録番号が映り込んでおり、エアバスA319型機だということが分かる。世界中の格安航空会社(LCC)で利用されているA320型機の派生形だ。
北は台北、南はジャカルタが4時間圏内に
多くのLCCは、「片道4時間以内」を基本的な運航範囲にしている。仮に今回の試験飛行で使用された機体が人工島の新空港を拠点にした場合、北は台北、南はジャカルタまでが4時間圏内に含まれる。旅客機ではなく軍用機がこの空港を利用するとなれば、さらにカバー範囲が広がることになる。
だが、今回の新華社通信の報道で登場するのは「民間機」のみだ。新華社通信は別の論説記事でも、新空港が「公益に資する」という見出しを掲げた。その中では、14年3月に発生し、15年1月になって乗員乗客239人全員の死亡が認定されたマレーシア航空370便墜落事故について、初動に時間がかかったことを指摘しながら
「永暑礁のような拠点があれば、救助に向かうまでの時間を劇的に減らせたはずだと専門家は指摘している。海の捜索と救助は最初の数時間がきわめて重要で、近くに地上拠点があることは明確な利点だと言える」
と主張した。
ジャンボ機も使えるが、「不必要な争いを避ける」ために小型機に
中国共産党系の環球時報では、専門家が
「公開された情報からすると、新空港は3000メートルの滑走路があり、ボーイング747型機のような大型機も離発着できる。ただ、今回の試験飛行の主な目的は空港のテストなので、大型機を使用する必要はない。不必要な争いをさけるために小型機を利用した」
と解説している。本来ならばジャンボ機で試験飛行を行うこともできたが、周辺諸国に配慮して小型機にした、という訳だ。
人工島での試験飛行をめぐっては、ベトナム外務省が「主権侵害」だと抗議する声明を出したほか、菅義偉官房長官も
「一方的な現状変更、既成事実を一段と進める行為。深刻な懸念を表明する」
と非難している。