2016年度の政府の税収が57兆6040億円(2015年度当初予算比3兆790億円、5.6%増)となり、バブル期の1991年度以来25年ぶりの水準となる見通しとなった。
税収は企業業績など景気を映す鏡で、税収増は朗報に違いない。安倍晋三首相は「アベノミクスの成果」と主張するが、景気動向の行方次第で、見込み通り税収が増えるかどうかは不透明な面もある。
戦後の税収のピークは、バブル末期の1990年度の60兆円
「安倍政権前と比べて税収は15兆円増え、国債発行額は10兆円減った。成果は明白だ。自信をもって、この道をみなさんと進んでいきたい」
2015年12月22日、首相官邸で開かれた政府与党政策懇談会で、安倍首相はアベノミクスを自画自賛して見せた。
これには理由がある。2015年度の一般会計予算の税収が、当初の見積もりより1.5兆円以上増え、56兆円台に達すると見込み、2016年度はさらに伸びて57兆6040億円に達すると予測しているのだ。
政府の税収は景気動向や税制改正を反映する。戦後の税収のピークは、バブル末期の1990年度の60兆円だ。バブル崩壊後は税収が50兆円台から40兆円台に落ち込んだ。リーマンショック直後の2009年度は38兆円と、バブル後の底を記録した。民主党政権時代も回復に転じたものの、やはり、2012年の第2次安倍政権誕生以降の税収の増加が著しい。
2014年春の消費税率引き上げもあったが、それだけが理由ではない。消費税率1%の引き上げで2兆円から2.5兆円の税収アップにつながるとされる。税収は消費税率引き上げ前の2013年度の47兆円から、2016年度は57兆6040億円と約10兆円増えることを見込むが、このうち消費税率引き上げ分(5%から8%へ)は6兆3000億円というのが財務省の試算で、消費増税分を上回る税収増には、アベノミクスの効果があるのは確かだ。円安で業績好調な大企業などの法人税収が増えているほか、株式配当の増加や賃上げ効果で個人の所得が伸び、所得税収が増えていることも影響しているだろう。
世界経済の変調が日本経済に波及するリスクが
しかし、これが今後も持続ずる保証はない。2016年度の税収見通しは、政府が12月22日に閣議了解した2016年度の政府経済見通しに基づいている。国内総生産(GDP)の成長率は、物価変動の影響を除いた実質で1.7%、物価変動を反映させた名目では3.1%と予測した。しかし、過去20年で名目成長率が3%を超えた年度はない。2016年度の名目3.1%成長は2017年4月の消費税率10%への引き上げ前の駆け込み需要で成長率を0.3%押し上げるとの効果も織り込んでいるとはいえ、「名目3%はあまりに楽観的」(アナリスト)との見方が多い。
国内では円安誘導で株高を支え、法人税減税と引き換えに大企業に賃上げを求めるとはいえ、賃上げは広がりを欠き、個人消費に力強さはない。軽減税率の導入で不足する税収1兆円のうち、6000億円の財源確保は議論を持ち越すなど、税収をめぐる不確定要素が残されている。
世界経済は成長のエンジン役の中国経済が減速しているうえ、米国の利上げに伴う新興国経済の下振れリスクがあるなど不安定感を増している。世界経済の変調が日本経済に波及すれば、税収が期待通り伸びず、アベノミクスは足元から揺らぐリスクをはらんでいる。