「髪毛黒生」(かみのけくろはえ)。これが実際にある駅名なのだから驚く。千葉県銚子市の海沿いを走る銚子電鉄が、駅の命名権(ネーミングライツ)を企業に販売する、思い切った「財政再建策」に乗り出した。
銚子電鉄が持つ唯一の路線「銚子電気鉄道線」の9駅分を売りだし、すでに7駅が決定。2015年12月から「髪毛黒生」をはじめユニークな愛称がそれぞれに付けられたが、ネット上の反応は「現状を変えようという意気や良し」「なんだか違和感」と賛否両論が沸き起こっている。
「企業様の広告宣伝ツールの一つ」
銚子電鉄が駅のネーミングライツを募集し始めたのは2015年5月11日からだ。始点銚子駅から終点外川駅までの10駅中、銚子駅を除く9駅について募集。公式サイトに掲載された要項によれば、募集目的は「駅舎や車両など鉄道資産の維持に係る費用を賄い、今後の安全かつ安定的な輸送に資すること」で、「企業様の広告宣伝ツールの一つ」と捉えてほしいと訴えた。
7月31日の締め切りまでに複数の企業が応募し、7駅の愛称が決定。実際に12月1日から運用が始まった。正式な駅名は変わらないが、契約期間の1年間、愛称が駅舎やホームの看板、時刻表に並んで掲載されたり、車内アナウンスで一緒に呼ばれたりする。なお、同社の担当者によると、まだ決まっていない2駅についても「追加募集をかける」という。
仲ノ町駅は、千葉・茨城・埼玉の3県にパチンコ店「パールショップ」を展開するカクタ(千葉市)が「パールショップともえ 仲ノ町駅」と命名。犬吠駅は、旅行代理店の沖縄ツーリスト(那覇市)に「One Two Smile OTS 犬吠埼温泉 犬吠」と名付けられた。
そして、「笠上黒生」(かさがみくろはえ)駅が「髪毛黒生」となった。この駅の名付け親はヘアケア商品を製造・販売するメソケアプラス(東京都港区)。もともと毛髪を連想させる正式の駅名が意外な「コラボ」を生んだ。
こうした特徴的なネーミングはSNSですぐさま話題となり、複数のメディアに取り上げられたが、ネット上の反応は賛否両論分かれている。
「現状を変えようという意気や良し」
「いいセンス」
という称賛の声や
「なんだか違和感」
「迷走している」
との声も少なくない。
「ぬれ煎餅」に加え、駅名売り出しが経営の「救世主」に
当の銚子電鉄の担当者は「利用客の反応はおおむね好評だと思います。とくに髪毛黒生駅の車内アナウンスが流れると、乗客の笑いが起きています」と明かす。
ツイッターでも、以前ある飲食店が導入して話題となった薄毛の客への割引サービス「ハゲ割り」を運賃で実施するべき、響きやネーミングから毛髪と結びつけられがちなJR半家(はげ)駅(高知県四万十市)、JR増毛(ましけ)駅(北海道増毛郡)、JR福生(ふっさ)駅(東京都福生市)と「髪毛黒生」駅を結ぶ鉄道ツアーを企画するべき、といった斬新な「追加アイデア」が飛び出した。
今企画の背景にあるのは、ほかでもなく財政難だ。沿線地域の人口減だけでなく、06年、内山健冶郎前社長による横領事件が発覚。運転資金の不足が深刻化し、運行を中止する瀬戸際に立たされた。当時は銚子名産の醤油を使った「ぬれ煎餅」の製造・販売で難をしのいだが、今も予断を許さない状況が続く。
同社担当者は「もう鉄道収入だけでは(経営が)回らないんです。生き残るためには、稼ぐためには何でもしないと」と語る。
やや古い資料となるが13年12月、同社が銚子市に提出した経営改善計画によると、13年3月期は売上の約8割をぬれ煎餅中心の食品事業でまかなっている。「本業(鉄道事業)を副業(ぬれ煎餅)が支える」事業構造と言える。一駅につき年間80万~200万円の権利料、現時点で830万円の増収を見込めるネーミングライツは、まさに「救世主」というわけだ。