いわゆる従軍慰安婦問題の解決に向けた日韓の合意に関して、早くも両国の認識の違いが鮮明になっている。
2015年12月28日の日韓外相による発表では、ソウルの日本大使館前に設置された従軍慰安婦をモチーフにした少女像の撤去問題について、韓国側が「適切に解決されるよう努力する」と述べただけだったが、岸田文雄外相は「適切に移設されるものと認識している」と繰り返し発言。発表内容を踏み越えた発言なのではないかという受け止め方が広がり、韓国政府は日本側の発言が「誤解を招きかねない」として反発。その後の菅義偉官房長官の会見では「努力をされるだろうと認識している」と表現が後退したような発言もあり、合意どころか、「問題再燃」の「火消し」を迫られているようにも見える。
「(岸田外相は)共同記者会見の内容から踏み越えている」との指摘
12月28日の発表では、慰安婦像については尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が
「日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」
と述べたのみだ。文字通り読めば、「努力する」ことは表明したものの、移設が合意の前提になっているわけではない。ところが、12月30日には日本メディアから
「日本政府は少女像が撤去されなければ10億円を拠出しない意向と、政府筋」(共同通信)
といった、移設が合意の前提であるかのような報道が相次いだ。これに加えて、年が明けた16年1月4日の岸田氏の発言がさらに波紋を広げた。岸田氏は
「共同記者会見で私と尹炳世長官が発表した内容に尽きると考えている。それ以上でもそれ以下でもないと考えている」
と一応は断った。ただ、岸田氏は外相会談後のぶら下がり取材で
「適切な移転がなされるものであるものと認識している」
と述べている。この点について記者が
「ある意味、共同記者会見の内容から踏み越えているようにも思える」
と確認すると、岸田氏は
「私自身、今日までの日韓間のやりとり、そして共同記者発表での発言等を踏まえて、『適切に移設されるものと認識しております』というように申し上げさせていただいた。その認識は今でも変わらない」
と同様の発言を繰り返した。