前田健太、ドジャース入りへ。2016年1月、またもや日本球界のエースが大リーグに行く。
そのたびに潤うのが所属していた球団だ。いまや日本のプロ球団は入札ビジネスにまっしぐらだ。
選手の影で目立たない巨額の球団収入
「8年、2500万ドル(30億円)」
ドジャースと入団で合意した前田の噂されている契約条件である。一部で、安くはないか、といわれているが、大リーグの名門チームと長い契約を結ぶことができれば、それは誇りになる。
前田もポスティング・システム(入札制度)を利用している。つまり、昨年まで所属していた広島は2000万ドル(24億円)を譲渡金として受け取る。
振り返ってみると、この入札制度で日本の球団は大金を手中にしている。大リーグ入りする選手に脚光が浴びるため、球団収入は目立たない。実際は簡単に稼ぐことのできない大金を懐に入れているのだ。
前田の場合もこんなやりとりだったのではないか。
「大リーグに行きたいんですが...」
フロントが応える。
「大リーグに行きたい? そう、OKだよ」
こう言うだけのことで札束がドサッと来るのである。
エースの「譲渡金」で年間球団運営費に相当
これまで何人かの投手が入札で太平洋を渡った。いずれもそのときの日本球界ナンバーワンばかりだ。
西武の松坂大輔が名門レッドソックス入りしたのは2007年のことだった。「6年、5200万ドル(60億円)」が契約条件で、西武には同額の譲渡金が入ったとされている。
「西武は譲渡金で1年間の球団運営費を賄えた」
こんな声が関係者から上がったほどである。この後、譲渡金の制度が改められ、上限が決まった。
次はダルビッシュ有である。12年にレンジャースと契約し、契約条件は「5600万ドル(67億円)プラス出来高400万ドル(5億円)」で、松坂を超える内容と話題になった。その陰で日本ハムは40億円を超える譲渡金を受け取った。
そして田中将大だ。14年、屈指の名門ヤンキースと「7年、1億5500万ドル(161億円)」の契約を結んだ。楽天はというと、譲渡金の上限いっぱいの「40億円」をいただいた。
どの球団も選手が大リーグ行きを希望すると、必ず「残ってほしい」とコメントする。ところが正式の話になると、すべて「いいよ、頑張んなさい」と送り出す。とてつもない収入につながるのだから、本心は「大もうけ」といったところなのだろう。
このように、いまや日本の球団は「入札ビジネス」にはまり込んでいる。数年後には阪神の藤浪晋太郎、日本ハムの大谷翔平も「大金のなる木」に変身するに違いない。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)