「幸福だと感じている人は長生きをする」「不幸だと感じている人ほど寿命が短い」――。こう考えている人は多い。その理由として挙がるのが、「幸福感は免疫力を高めるから健康にいい」とか「不幸な人はストレスが多いから病気になりやすい」などだ。
しかし、本当にそうだろうかと、医学的に検証した調査結果が2015年12月9日付の英医学誌「ランセット」(電子版)に発表された。
「幸福だから健康」それとも「健康だから幸福」?
発表したのは、オーストラリアのニュー・サウス・ウエールズ大学のベティー・リュー博士らのチームだ。「幸福」と「健康」の問題は、「幸福だから健康になるのか」、それとも「健康だから幸福と思うのか」という「卵が先か、鶏が先か」という問題に似ており、主観的な面が強いため、客観的な検証が難しい。
そこでリュー博士らは、英国の中年女性71万9671人(年齢中央値59歳)の協力を得て、幸福度と健康について大々的なアンケート調査を行った。アンケート開始時点では、心臓病、脳梗塞、がんなどの重い疾患のない人を調査対象にした。そして2012年まで約10年間追跡調査した。
まず、幸福度を客観的に評価するため、「幸せを感じる頻度は?」という質問に対し、(1)ほとんどいつも(2)たいてい(3)たまに(4)ほとんど感じない(5)まったく感じない――のいずれかの回答を選択してもらった。それぞれに点数をつけて、(1)(2)を「幸福」に、(3)以下を「不幸」に分類した。その結果、83%が「幸福」、17%が「不幸」と回答した。
幸福か不幸かは、死亡リスクにまったく関係なかった
また、同様に「気持ちが落ち着いているか?」「リラックスしているか?」「ストレスを感じているか?」「人生をコントロールできているか?」など心理状態を質問して点数評価した。さらに、病気の有無を聞き、健康状態について「極めて良い」「良い」「普通」「良くない」を答えてもらい、点数評価した。
すると、「幸福・不幸」と「健康・不健康」との間の関連は高く、不幸な人は不健康な人が多かった。同様に、幸福な人は健康な人が多かったのだ。
追跡期間中に3万1531人(全体の4%)が死亡した。死亡した人々を調査開始時点での健康状態の点数で調整して分析すると、幸福な人と不幸な人の死亡リスクに差がほとんどなかった。「ストレスを感じているか?」「人生をコントロールできているか?」などの質問の回答に関しても、死亡リスクとの関連性はまったくみられなかった。
調査開始時点の「健康状態」が死亡リスクに関係はするが、「幸福か不幸か」とか「人生をコントロールできているか、いないか」など心理的な要素はまったく関係しなかった。つまり、「幸福だから健康になるのか」、それとも「健康だから幸福と思うのか」という冒頭の問いの答えは「健康だから幸福と思う」が正しかったのだ。
生活習慣を変えれば幸せになれる
この結果について、リュー博士は、「不幸だと感じていることが健康を悪化させていると誤解している人が多いですが、因果関係を取り違えています。幸福度そのものは、死亡リスクにまったく影響していません。ただ、喫煙や飲酒など悪い生活習慣が健康を悪化させ、不幸であると思うことにつながる可能性があります」と指摘している。
悪い生活習慣を変えれば、幸福な気持ちになれるというわけだ。