生後すぐに重度の心筋梗塞を起こした赤ちゃんが、不可能と考えられてきた心臓組織を再生させた症例が医学界を驚かせている。米の医学誌「サーキュレーション・リサーチ」(電子版)の2015年12月6日号にオーストリア分子生物工学研究所の研究チームが、「奇跡の赤ちゃん」の症例を発表した。
それによると、同国インスブルック医科大学病院で、男の赤ちゃんが生まれたが、生後1時間もしないうちに心臓の大きな血管の1つが閉塞して心筋梗塞になった。緊急手術で救命措置を施すと、心臓組織が「自然再生」し1か月半後には無事退院した。その後も赤ちゃんは元気で、心臓が正常に機能しているという。
同病院小児心臓病学部長のジョグ・リンゴルフ・ステイン氏は「赤ちゃんは、心臓に重度の損傷を受けていましたが、驚いたことに非常に早く回復しました。これは人間の心臓が大きなダメージから完全に回復することができることを初めて裏付けたものです」と語っている。
すべての心臓病患者と専門家の夢が現実に?
心筋梗塞を発症すると心臓の一部が壊死する。壊死した心臓の細胞は、二度と生き返ることはなく、壊死した部分が機能不全に陥る。これまで動物の実験では心臓細胞の再生に成功した例があるが、人間の場合は難しく、iPS細胞の開発・研究に期待が寄せられているのが現状だ。
症例を発表した同研究所のジョセフ・ペニンガー代表は「すべての心臓専門家は、損傷を受けた心臓が完全な機能を取り戻すことを夢見ています。今回の症例で赤ちゃんが見せてくれた優れた回復能力を考えると、それが夢ではないことを確認しました」とコメントしている。