郊外ロードサイド店が主力の紳士服チェーン大手が市場縮小に直面し、焼き肉や漫画喫茶、はたまた靴修理や子供向け英会話など「副業」の強化を急いでいる。
多角化で経営を安定させながら、女性を含めた新しい衣料需要の掘り起こしを進める考えのようだ。
青山が「ミスターミニット」買収した狙い
とりわけ副業強化を加速させているのは、紳士服チェーン首位で「洋服の青山」を展開する青山商事だ。2015年11月27日に、靴の修理や合鍵作成を手がける「ミスターミニット」を運営する「ミニット・アジア・パシフィック」(東京都港区)を買収し、12月に完全子会社化すると発表した。ミニット・アジア・パシフィックは日本のほかオーストラリア、ニュージーランドなどで「ミスターミニット」の統一ブランドのもと、約500店を展開している。買収額は非公表。
「ミスターミニット」の発祥はベルギーだが、2006年に日本法人がMBO(経営陣による自社買収)で独立し、オーストラリアやニュージーランドの現地法人も自陣営に引き込んだ。2015年3月期の連結売上高は113億円に上る。青山商事にしてみれば、紳士服とまったく縁がないジャンルではないが、異業種であることに違いない。
青山商事は「少子高齢化に伴うスーツマーケットの縮小などを背景に当社グループを取り巻く環境は厳しい」としたうえで、「当社は事業領域の拡大を視野に入れたさらなる成長を目指す。」とミニット社買収の狙いを説明した。相乗効果の具現策として、ミスターミニット店舗を「青山」の顧客のサービス拠点として活用するほか、「青山」の店舗網や顧客基盤をミニット社の経営にも生かすとしている。
衣料品の海外展開にも足がかかり
さらに、ミニット社の海外事業のノウハウを「青山」の海外展開にも生かす。紳士服チェーン各社は海外展開を模索しているが、なかなか店舗が増えず、まだまだ成功とは言いがたいのが現状。青山商事はミニット社をテコに局面を変えたい考えだ。
既に青山商事は2011年、子会社を通じて「焼肉きんぐ」ブランドで焼肉店チェーンに参入。現在は20店程度を運営している。15年7月には「ゆず庵」ブランドのしゃぶしゃぶ店も出した。スーツを買うついでに焼肉という人がどこまでいるかわからないが、ロードサイド店に焼肉などの飲食店を併設することで、需要時間帯の違う駐車場を有効に活用するなどの狙いもる。
AOKIは売り上げの4割が「非スーツ」
非スーツ部門の展開で青山商事の上を行くのが、AOKIホールディングスだ。何しろ、青山商事の非スーツの売上高が全体の2割程度なのに対し、AOKIは約4割に達する。AOKIは漫画喫茶「快活CLUB」や、カラオケボックス「コート・ダジュール」を全国展開するほか、「アニヴェルセル」ブランドの結婚式場を運営。それぞれしっかりとした収益をあげている。「快活CLUB」は女性専用店の展開などにより、さらなる成長を目指す。
「紳士服のコナカ」を展開するコナカは飲食店などの子会社「コナカエンタープライズ」(横浜市)を通じて学童保育サービスの「拓人こども未来」(東京・中央区)と10月にフランチャイズ契約を結び、英語教育を売り物にする学童保育事業に参入した。女性の社会進出を背景に小学生を放課後に一定時間預かる学童保育のニーズは高まっていると判断した。将来的には不採算の「紳士服のコナカ」店舗を学童保育の拠点とする方針だ。
このように、紳士服以外の事業に注力する大手各社だが、あくまでも主力は衣料品販売に置いている。今業界で注目されているのが、AOKIの「オリヒカ」ブランドだ。クールビズの浸透でネクタイをつけないいでたちが定着するなか、「崩しすぎない仕事着」を提案し、一定の支持を得ている。「爆買い」の中国人も日本製スーツに熱い視線を送る。多角化と本業のスーツを両立させようと動く紳士服チェーンの挑戦は続く。