自民、公明両党が対象品目をめぐって激しく対立した食品をめぐる消費税の軽減税率は、酒類・外食を除く食料品(必要財源は約1兆円)を対象とすることでようやく決着した。
与党協議の最終盤では、それまで対象品目の絞り込みを主張してきた自民党が突然、外食を含めるよう逆向きの提案を出し、合意目前で議論がストップする一幕があったが、その混乱の「仕掛け人」は財務省主税局だったとされる。
それまでと「真逆」の谷垣提案に「あっけにとられた」公明党
2015年12月11日、東京都内のホテルで自民党の谷垣禎一幹事長と公明党の井上義久幹事長が軽減税率制度の与党合意に向けた最終協議に臨んだ。両党は「酒類・外食を除く食料品」を対象とすることで一致しており、関係者によると、最終合意に達することを想定し、終了後に報道陣の取材に応じる準備もできていたという。
だが、この日は合意に至らなかった。継続協議になった理由は、谷垣氏が対象の拡大を主張したためだ。谷垣氏は、「『外食』なのか『食品』なのか、区別が難しいケースが多く、線引きができない」として、外食も一括して対象に含めることを求めたという。必要な財源は外食含めると1.3兆円に膨らむ。
それまでの協議では、公明党が幅広い品目への軽減税率適用を主張する一方、自民党は財源不足などを理由に「生鮮食品などに絞るべきだ」と反論してきた。土壇場で谷垣氏が従来の主張と真逆の「外食も対象」を持ち出したことに、公明党側は「あっけにとられた」(党幹部)という。財政再建論者として知られる谷垣氏が、多くの財源が必要な対象拡大を逆提案したのは、税制を担当する財務省主税局が熱心に働きかけたからだとされる。
主税局は今春以降、大幅な税収減につながりかねない軽減税率の導入を回避するため、マイナンバーカードを買い物の際に提示すると、後日、お金が戻ってくる「還付金案」作りに注力していた。結局、この案は公明党や世論の猛反発を受けて撤回に追い込まれ、10月に安倍晋三首相の指示で軽減税率導入が決まったが、主税局は軽減税率の制度設計について「ほとんど何も準備していなかった」(財務省職員)のが実態だ。
ハンバーガー店のテークアウトやそば屋の出前、野球場の売店の軽食など、「外食」なのか単なる「食料品」なのか分かりにくいケースは多い。その一つ一つの事例を判断して制度を設計するには時間と手間がかかる。年明けの通常国会には軽減税率制度を盛り込んだ税制改正法案を提出し、麻生太郎財務相がこうしたグレーゾーンの事例についても明確に答弁しなければならない。
焦った財務省主税局幹部は、谷垣氏や自民党税制調査会幹部に「外食を含めるべきだ」と説いて回り、谷垣氏や党税調幹部がこれを受け入れ、公明党との協議で対象拡大を提案したというわけだ。
「主計局」と麻生財務相が「外食」に反対
だが、軽減税率の実施に必要な財源のうち、確保できているのは4000億円程度。残る6000億(加工食品まで)~9000億円(外食も含む)はめどがついていない。財務省内からは主計局を中心に「ただでさえ財源が足りないのに、何を考えているんだ」(幹部)と不満が噴出し、麻生財務相も対象拡大に難色を示した。官邸サイドからも「財政再建に支障が出る」と懸念が伝えられ、12月11日の谷垣・井上会談は結論が先送りされた。
翌12日の土曜日、麻生財務相は谷垣氏と会談し、外食を対象から外す考えを伝えた。谷垣氏も受け入れ、自公協議はようやく、対象を「酒類・外食を除く飲食料品」とすることで決着した。
ただ、政府・与党内では最後に混乱の種をまいた主税局に対し「財務省案をつぶされるなど、議論が思い通りに進まなかったことへの腹いせではないか」と不信感がくすぶっている。特に官邸サイドは、軽減税率の導入や対象拡大に抵抗してきた財務省へ怒りを募らせており、しこりが残りそうだ。