認知症を引き起こすアルツハイマー病は、治療法がなく、人間だけがかかる病気と思われてきた。ところが、高齢のネコも人間とまったく同じメカニズムで発症することが、東京大と京都府立医科大、大阪市立大、麻布大の合同チームの研究でわかり、2015年12月、国際神経病理学誌「ANC」に発表した。
ネコ好きにとっては、うれしいような悲しいような研究である。
哺乳類には「老人斑」できるが...
アルツハイマー病は、3つの段階をへて発症する。(1)脳の神経細胞の外側に「アミロイドベータ」というタンパク質が凝集し、「老人斑」ができる。(2)さらに神経細胞の内側に「タウ」と呼ばれるタンパク質が集まり、異常な糸くず状の繊維がたまる「神経原線維変化」が起こる。(3)最後に、記憶をつかさどる「海馬」の神経細胞がどんどん脱落し、「海馬」が萎縮する。こうして認知症に至る。
これまで、イヌやサルなどほかの哺乳類では、高齢になると「老人斑」ができるが、「神経原線維変化」や「海馬」の神経細胞の脱落までは確認されていない。遺伝子操作のマウスも同様で、人間以外にアルツハイマーの発症を再現する動物がいないことが、治療法の発見を難しくしていた。
ネコちゃんは8歳から老化現象が、14歳から脳が萎縮してくる
ネコの寿命は短く、20歳が人間の100歳近くに相当するといわれる。研究チームは、ペットとして飼われ、22歳までに死んだ高齢のネコ23匹を解剖して脳を調べた。すると、8歳頃からアミロイドベータが沈着して「老人斑」ができ、14歳頃から「タウ」が蓄積、「神経原線維変化」と「海馬」の神経細胞の脱落が始まることがわかった。ネコは、人間よりはるかに短い寿命の中で、人間と同じアルツハイマー病の病変をたどるのだ。これは、チータやヤマネコなどネコ科の動物に共通の特徴だという。
研究チームは論文の中で、「ネコの脳を研究することで、アルツハイマー病の解明と治療法の開発が進むことが期待されます」と述べている。ネコちゃんたちがますます愛おしくなるではないか。