民法の「夫婦同姓」規定は憲法に反しない、という最高裁判決が2015年12月16日に出されたが、男女平等などを根拠に「選択的夫婦別姓」導入を求める声は高まっている。しかし、仮に夫婦が別の姓を名乗った場合、子どもの姓はどう決めるのか。夫婦の姓は、夫婦2人だけの問題ではない。
判決を機に、メディアでは著名人の意見が入り乱れている。明治天皇の玄孫で憲法学者の竹田恒泰氏は17日、判決を支持するツイートを行い、議論を呼んだ。一方で「別姓でも子どもの姓への影響はない、あるいは緩和する方法がある」と考える識者も多い。
「同じ姓を名乗り、家族の一員だと実感することに意義がある」
最高裁判決では、夫婦同姓制度は「社会に定着しており、家族を構成する個人が同じ姓を名乗り、家族の一員だと実感することに意義がある」と述べて合憲とした。竹田氏は、各個人は「社会の一員である前に家族の一員であり、不自由があるのはむしろ当然」と同姓支持を訴えたうえで、
「選択的夫婦別姓では、子供の姓をどうするかで夫婦で意見が割れた場合、大きな問題となる」
と、論拠の一つに「子どもの姓」を挙げた。
この発言に対しネット上では
「子供に将来余計な精神的負担を与えないためには、夫婦同姓が望ましい」
「その問題を引き受けるから選択的別姓を認めて欲しいっていうこと」
「夫婦同姓の今でも女性が通名を使うことができるなどと同様に運用・あるいは選択制移行時の立法でどうにでもなる」
などと賛否両論が出た。
12月17日付の朝日新聞紙面に掲載された一般の人々の声も、
「同姓の方が家族のためにはいいと思うけど、今は男性の姓にするのが当たり前の雰囲気。自分の姓に愛着があるので、判決には複雑な思い」
「別姓で子どもたちに混乱が起きるよりは、家族に一体感が感じられる今のままでいい。同じ名字の方が結婚した実感が湧く」
と割れている。
「子どもは家裁の許可により姓を変更できる」とする民法改正案
「子どもの姓」については、今回の判決でも、寺田逸郎裁判長が補足意見として、「民法上の家族は、夫婦とその間に生まれた子どもが基本をなしている」ことを前提に、「子どもは夫婦と同じ姓を持つ存在として意義づけられている」と述べた。そして、こうした「現在の家族制度は社会の多数に受け入れられており、その合理性を疑う余地があるとは思えない」と、社会の実態に合わせる判断を下した。
憲法学会理事で日本大学法学部教授の百地章氏は、夫婦が別の姓を名乗ることで
「子どもも夫婦のどちらかと必然的に姓が異なることになり、不安を抱いたり、いじめを受けたりという弊害が生じる可能性もある。別姓を選ぶ夫婦は、『我が家は大丈夫』と思うかもしれないが、姓を選べない子どもへの配慮が欠けているのではないか」
と12月17日付の読売新聞のインタビューに答え、「子どもへの視点」を重要視した。
1996年に法制審議会が答申した民法改正案では、選択的夫婦別姓制度の導入が提言されており、
「夫婦が婚姻する際に、子どもが名乗る姓を決めておく」
「子どもが複数いるときは子ども全員同じ姓を名乗る」
という考えを示している。これを採用すれば、少なくとも夫婦間では、子どもの姓が問題になることは少なくなりそうだ。また、この改正案では
「別姓の夫婦の子どもは、成人すれば家庭裁判所の許可により父または母の姓に変更できる」
と、子ども自身が自己の姓を選ぶ権利も残している。しかし、法務省の説明では「国民各層にさまざまな意見がある」ことなどから、2015年12月まで当該改正案を国会提出するには至っていない。
民主党も2015年6月、夫婦別姓導入を前提に「子どもの姓は出生の際に夫婦の協議で決める」とする民法改正案を作成し、共産党、社民党などと共同で国会に提出したが、法案は審議入りせず、廃案となった。
夫婦双方の「姓を並立」や「新姓創出」の案も
ユニークな意見としては、評論家の宮崎哲弥氏がかつて唱えた案がある。夫婦の姓を並列させる「結合姓」や夫婦双方の姓以外の「新姓創出」も認めることを条件に、選択的夫婦別姓制度を導入してもよいと、2008年12月8日放送の「たかじんTV非常事態宣言」(読売テレビ)の中で発言していた。夫婦どちらかの姓だけでなく、双方の姓を名乗る、または第三の選択肢を与える手法だ。
作家の古市憲寿氏は、
「離婚率が高い日本では、子どもの姓が親の姓と変わるのは珍しくない」
として、子どもの名前に関して混乱が生じるとは思えない旨を、2015年11月8日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)で述べた。厚生労働省が2015年1月1日に発表した「人口動態統計の年間推計」によると、年間約22万2000組が離婚している。全ての夫婦に子どもがいるわけではないが、相当数の子どもが離婚により親と姓を異にする経験をしているともいえる。
コラムニストのオバタカズユキ氏は、選択的夫婦別姓制度の導入は、
「親子や兄弟姉妹全員が同姓でなくても構わない、という考え方の普及活動でもあり、別姓を異常視しない常識づくりである」
とし、「別姓・同姓家族の共存を国としてめざそうというものだ」との考えを2015年12月19日のNEWSポストセブンで述べている。
実態としても、2015年11月27日付の朝日新聞デジタルでは、兄弟で名字が違う小学生を取り上げ、「離婚したのかと聞かれたが気にしなかった。いつの間にか『母が自分の姓を大事にしていて、自分にも付けた』と説明するようになっていた」という。12月20日付の朝日新聞デジタルでは、ペーパー離婚により別姓夫婦の子となった20歳の男性を紹介した。「ここ10年、友だちから親の姓を聞かれたことはなく、それでいじめられたこともない。親が別姓だと子どもがかわいそうと考える人もいるが、自分は幸せに育った」という。
日本以外では、例えば、韓国では夫婦別性が基本で、生まれた子どもは父親の姓を名乗るとされている。ただ今回の判決では、「別姓を認める諸外国でも、子どもの姓をどうするかについては意見が分かれている」とし、「こうしたことまで考慮に入れて判断するのは司法審査の限界をはるかに超える」と判断を避けた。そして、姓の問題は社会生活への見方を問うものだとして、「むしろ国民的議論、民主主義的なプロセスで幅広く検討していくことがふさわしい解決だと思える」と、国会をはじめとした裁判以外の場での議論を促した。