産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(49)のコラムをめぐる訴訟は、検察がこのまま控訴しなければ「無罪」という形で決着しそうだ。日本国内では「起訴したこと自体が無理筋」だとの見方が大勢だが、韓国メディアの中には加藤氏側にも非があったとの指摘もある。
加藤氏のコラムは朝鮮日報に掲載されていたコラムの内容をベースにしたものだ。だが、驚くべきことに、その朝鮮日報が加藤氏のコラムは「誤報」で、「記者にとって誤報は致命的なのにもかかわらず、恥とも思っていない」だと激しく非難しているのだ。
噂を否定した裁判長の見解に「異を唱えるつもりはない」
加藤氏は14年8月に執筆したコラムで、旅客船セウォル号沈没事故が起きた日の朴槿恵(パク・クネ)大統領の動静が7時間にわたって不明で、その間に男性と密会していたとの噂があることを指摘していた。加藤氏のコラムは、朝鮮日報の14年7月18日付のコラム「大統領をめぐる噂」をベースにしていた。
朴大統領が密会していたと指摘された男性は、後に「アリバイ」が明らかになっている。こういったこともあって、産経新聞に4月7日付で掲載された加藤氏の手記でも、
「3月30日の公判で、朴槿恵大統領をめぐる当時の噂を事実上否定した李東根(イ・ドングン)裁判長の見解は、これまでの審理や検察の捜査に則せば妥当なものだろう。私はその見解に異を唱えるつもりはない」
「私のコラムをめぐる裁判がきっかけとなって、結果的に韓国国民も疑問に思ってきた『噂』の内容が裁判所によって否定された」
とあり、「噂は事実ではない」という点は争わない方針を示していた。この点を踏まえた上で、加藤氏には無罪判決が言い渡された。
加藤氏を「誤報を恥じない『言論の自由の闘士』」と表現
だが、それでも朝鮮日報は加藤氏に批判的だ。朝鮮日報のコラム「萬物相」は12月18日、加藤氏を「誤報を恥じない『言論の自由の闘士』」と表現。「噂」が事実でなかったことが明らかにあったことを指摘しながら、日本側がコラムを政治利用したと主張した。
「それでも日本の政界や右翼系メディアは彼を言論の自由の闘士扱いした。反韓感情をあおるには絶好の材料だった」
その上で、「噂」を紹介したコラムを「誤報」だと断じ、記事の削除や訂正、謝罪を行うべきだとした。
「産経新聞は加藤前支局長の記事が事実でないことが明らかになったのにもかかわらず、謝罪はおろか訂正報道すらしていない。電子版の記事も削除せずにそのまま掲載されている。それどころか紙面を通じて『韓国は言論弾圧国だ』という主張ばかり繰り返した」
これに加えて、いわゆる「吉田証言」をめぐる朝日新聞の従軍慰安婦報道で、誤報に対する朝日の対応を産経が厳しく非難したことを引き合いに出しながら、加藤氏のコラムは「恥」だと主張した。
「そう言いながら自分たちの誤報には目をつぶっている。記者にとって誤報は致命的なのにもかかわらず、恥とも思っていない」
「ネタ元」のコラムは日本語にも翻訳され、今でもDBに収録
仮に加藤氏のコラムが「誤報」で「恥」であるとすれば、「ネタ元」の朝鮮日報のコラムにも同様の評価が与えられるべきだ。ところが、この朝鮮日報のコラムには、加藤氏のコラムのネタ元が自社のコラムだという点には全く触れていない。
ネタ元のコラムは日本語にも翻訳され、ウェブサイトに掲載された。朝鮮日報の日本語版ウェブサイトの記事は掲載から一定期間が経つと消去される。だが、コラムは有料データベースには掲載されたままだ。韓国語も日本語も、「ネタ元」のコラムについて訂正を出した形跡はない。
筆者の崔普植(チェ・ボシク)記者は加藤氏の公判で証人出廷を拒否。崔記者は欠席理由を説明する書類で、自らのコラムは、朴大統領の国政運営での不適切な対応が不要な噂を呼んでいることを「忠告する趣旨」だったのに対して、加藤氏のコラムには「低俗な内容」が加わっており「趣旨が違う」と主張した。