芥川賞受賞作「火花」(文藝春秋)が240万部のスマッシュヒットを記録したお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんだが、その「印税収入」は単純計算で3億円を下らないとも言われる。
その一方、所属事務所の「よしもとクリエイティブエージェンシー」(吉本興業)に半分近く「中抜き」される、との報道もある。
又吉「吉本芸人なので全部が僕のものじゃない」
出版取次大手の日本出版販売(日販)とトーハンが2015年12月1日に発表した年間ベストセラーランキングによると、総合1位は「火花」で発行部数240万部を記録。芥川賞受賞作が年間1位となったのは初めてだという。「3万部売れればベストセラー」とも言われる昨今では驚異的な販売部数だ。
出版界の通例として、書籍の印税は「定価と部数を掛けたものの10%」がもっともポピュラーとされる。
「火花」の書籍販売総額は、定価(税込1296円)に部数(240万部)を掛けたおよそ31億円。想定の域を出ないが、書籍だけで3億円を超える印税が著者に転がり込む計算だ。ドラマ化、映画化となるとさらに膨らむ。
しかし、事はそう単純でない。所属する吉本興業との間に印税配分をめぐって何らかの契約が交わされている可能性があるからだ。又吉さんは15年7月に都内で開かれたイベントで、吉本を経由して印税が支払われると明言、「吉本芸人なので全部が僕のものじゃない」と語った。
すでに「中抜き」も示唆されており、7月17日付けのスポーツニッポン電子版記事は約8300万円(当時)のうち、4000万円以上を吉本が持っていくと報じている。
書籍だけで3億円超なのに印税は「2億」
また、15年12月13日放送のバラエティー番組「芸能人つまずきビッグデータ」(フジテレビ系)に出演した又吉さんは、現在の印税収入について「(億)まではいってないんですけど」と話した。240万部という部数の割に「少ない」印象を受けたためか、ツイッターでも「事務所にとられすぎている」との声は少なくない。
又吉さんと同じく自著が大ヒットしたお笑いコンビ「麒麟」の田村裕さんの場合はどうだったのか。07年に刊行された自叙伝「ホームレス中学生」(ワニブックス)は累計225万部を突破し、後にドラマ化、映画化されるほど人気を集めた。
田村さんは出演番組ですべての印税収入がおよそ2億円だったと明かしている。ドラマや映画からの印税収入もここに含まれているようだが、単純計算でおよそ3億円の書籍印税を考えると、やはりこちらも「少ない」と言えるだろう。
吉本は07年、所属していたお笑いタレント・島田洋七さんと書籍印税の配分をめぐって騒動を起こしている。きっかけは島田さんが自費出版から人気を作り上げてきた自叙伝「佐賀のがばいばあちゃん」(徳間書店)だ。04年に発売されると、シリーズ累計600万部を超えて大ベストセラーとなり、映画やドラマにもなった。
各種報道によれば、吉本側が島田さんに印税を配分するよう依頼したため、両者の関係が悪化。島田さんは07年8月に契約終了という形で吉本を去った。