「カレシにするなら、やっぱり3高ね~」。背の高い人のあこがれるアナタ。実は、身長が高い人ほどがんリスクが高まるという研究は世界各国で発表されており、いまや定説に近いのだ。
最新のものは2015年10月、欧州小児内分泌学会で報告されたスウェーデンのチームの研究内容。同国で1938~1991年に生まれた約550万人を対象にした大規模な調査で、身長が1メートルから10センチ高くなるごとに、がんの発症率が男性で10%、女性で18%高まることがわかった。特に女性では10センチ高くなるごとに乳がんリスクは20%上昇し、悪性黒色腫(メラノーマ)は男女とも30%増えた。
肥満の人より長身の人の方がアブナイわけ
この傾向は、男性より女性に顕著なのが特徴だ。2011年7月に発表された英オックスフォード大学らの研究は、英国の女性約130万が対象。身長が155センチ未満から175センチ以上まで、10センチごとに6つのグループに分けて調査すると、身長が10センチ高まるごとに乳がん、卵巣がん、子宮がん、大腸がん、白血病、悪性黒色腫が平均で約16%増えた。ただし、喫煙者には身長との関連はみられなかった。発症率が跳び抜けて高かったからだ。 日本でも、2007年に国立がん研究センターが発表した研究がある。40~69歳の女性約5万6000人を対象に乳がんの発症リスクを調査すると、閉経の前後に関わらず、身長が高い人ほど乳がんになるリスクが高まった。身長が160センチ以上のグループは、148センチ以下のグループに比べ、閉経前で1.5倍、閉経後では2.4倍高かった。ちなみにこの研究では、肥満指数(BMI)と乳がんリスクとの関連も調べたが、身長ほど明確な結果は得られなかった。つまり、体重より身長の方がアブナイのである。
なぜ、背が高いとがんになりやすくなるのか。がん発症の全容が解明されたわけではないので、はっきりしたことはわからないが、多くの専門家のサイトで説明される有力なメカニズムはこうである。
成長ホルモンが悪さをする
(1)そもそもがんは、突然変異の細胞の異常増殖によって起こるから、細胞の数の多い人、つまり背の高い人ほど、がんになる確率は高い。体重の多寡は脂肪の量などが影響し、細胞の数が身長ほどには比例しない。
(2)背の高い人は、遺伝的要因とともに成長ホルモンの量が多いと考えられる。成長ホルモンの量が多いと、細胞の増殖が活発化して新しい細胞が次々に生まれる。その分、突然変異の細胞が生まれる確率も高まるわけだ。
(3)最近、成長ホルモンそのものが、がんの発症と関係あることがわかってきた。成長ホルモンは肝臓で「IGF-1」というインスリン様成長因子を作る。普通、細胞はダメージを受けると、がん細胞になるのをさけるために自ら死んでいく。これを「アポトーシス(自死)」という。ところが、IGF-1は傷ついた細胞をアポトーシスから守る作用がある。このため、傷ついた細胞が生き残り、がん細胞となって増殖を始める確率が高まる。
(4)実際、マウスの実験で成長ホルモンを働かせないようにすると、がんにならずに寿命が1.4倍も伸びた。人間でいえば200歳の長生きである。人を成長させようと頑張ってくれるホルモンの働きが裏目に出てしまうのだ。
しかし、背が高いといって悲観することはない。米がん協会のエリック・ジェイコブ氏はこう語る。「長身の人が、背が伸びないよう努力したり、過剰ながん検査を受けたりする必要はない。正しい生活習慣を維持し、喫煙をさけ、適正ながん検査を受ければ、リスクを軽減できることに変わりはない」。