パリで開かれている国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減に向けた協議が進む中、日本の内外で石炭火力発電の扱いが問題になっている。
経済協力開発機構(OECD)が、石炭火力の発電設備の輸出を規制する方針を打ち出す一方、日本では石炭火力発電所の計画が目白押しなうえ、政府は成長戦略の柱として石炭火発輸出に力を入れる。このチグハグでわかりにくい対応にNGOなどから批判が出ている。
削減に向かう欧米先進国
日米欧などの先進国が参加するOECDの作業部会は2015年11月、CO2の排出量が多い石炭火発を途上国などに輸出する際、政府系金融機関を通じて行う公的融資を原則禁じる規制に基本合意した。
石炭火発は、液化天然ガス(LNG)や石油などの発電所と比べて燃料価格が割安なことから、経済成長を目指す新興国や途上国の需要が高まっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、エネルギー源としての世界の石炭消費量は2040年に2013年比4割増と、燃料別では最大になる見通しだ。一方で、石炭火発のCO2の排出量はLNGの約2倍以上もある。地球温暖化防止のため石炭火発の規制強化を主張する米国や世界銀行などと、石炭火発の輸出を成長戦略の柱と位置づける日本などが対立し、議論は難航していた。
OECDの合意は、石炭火発のうち、発電効率が最も高くCO2排出量が比較的少ない型への公的支援は従来通り認めるが、効率が悪いものの輸出について、公的融資を2017年1月から禁止するという内容。これに呼応し、英政府は輸出どころか、国内にある石炭火発を2025年までに全廃する方針を打ち出した。
LNGの2倍のCO2を出す石炭
だが、OECDの規制も、ささやかな一歩でしかない。科学者らで作る国際NGO「クライメート・アクショ ン・トラッカー(CAT)」の集計によると、世界で新設が計画されている石炭火発は2440施設、出力は計14億2800万キロワットに達し、計画通りに新設が進むとCO2排出量は120億トンになるという。これは、産業革命後の気温上昇を2度未満に抑える国際目標達成のための許容量の最大約6倍だ。石炭火発をいかに抑えるかが地球温暖化防止のカギを握るというのが世界的な認識なのだ。
OECD規制では日本が得意とする高効率型は対象外となっており、「輸出への影響はほぼない」と、経済官庁幹部は平静を装う。しかし、国際協力銀行(JBIC)が2003~2014年度に資金支援した石炭火力の輸出案件(計画段階を含む)23件のうち、規制対象外の高効率型はわずか1件にとどまる。
もちろん、途上国は効率が悪くても低価格を選択せざるを得ない。OECD規制は効率が低い石炭火発でも、最貧国など対象を限定したうえ、出力が小さいものは「例外」として輸出を認めた。さらに、OECD非加盟の中国などが効率の悪い石炭火発の輸出を進めれば、かえって世界の温室効果ガスの排出量が増えてしまう恐れがある。このため、「高効率の石炭火力(の輸出)は温暖化対策になりうる」(丸川珠代環境相)というのも一面の真理だ。
それでも、最高の効率の石炭火発でさえLNGの2倍のCO2を出すだけに、「今こそ先進国が脱石炭に舵を取り、世界をけん引するべきだ」(国際的NGO)との世界的な潮流の中で、日本の方向が逆向きであることは否めない。
丸川環境相「簡単には認めるわけにいかない」
日本国内でも石炭火発をめぐる政策は揺れている。丸川環境相が11月に千葉県と秋田県の石炭火発の建設計画について、環境影響評価(アセス)法に基づいて「是認できない」との意見書を林幹雄経済産業相に出した。
政府は2030年度のあるべき電源構成(ベストミックス)で石炭を26%程度と決めているが、来年からの電力小売りの完全自由化に向け、価格が安く安定している石炭火発の計画が目白押しだ。経済産業省は火力発電に占める石炭の比率を上限5割に抑え、発電効率の高い設備のみ新設を認め、老朽設備の廃止や稼働休止を進める方針だが、環境省は温暖化防止のため一段の石炭抑制を主張する。
環境省の試算によると、ベストミックスに従った2030年度の石炭火発による発電量は2810億キロワット時、これによるCO2排出量は2.3億トンで、2013年度の2850億キロワット時、2.7億トンから発電量を圧縮してCO2を減らさなければならないことになっている。しかし、現在の石炭火発の計画は全国で34か所あり、全て稼働すれば30年度のCO2排出量は2.74億トンになる――。当然、「石炭火発を簡単には認めるわけにいかない」というのが環境省の姿勢だ。
石炭火発計画で現在、環境アセス手続きにかかっているのは11件。これまで環境省は、アセスの調査前の時点で、いずれも厳しい意見を述べている。早いものは2016年にも国として建設にゴーサインを出すか否かの最終判断を迫られる見通しで、日本の温暖化への取り組み姿勢が問われることになる。