「現場からの医療改革推進協議会」の第10回シンポジウムが2015年11月28、29日、東京大学医科学研究所で開かれた。
2006年 2月、福島県立大野病院産婦人科の医師が逮捕された。医師1人の体制下で、出血した産婦を救えなかったことが業務上過失致死罪に問われたものだ。日本の医療が破壊されるとの認識から東大医科学研究所の上(かみ)昌広さんら医療者が声を上げ、法律家、メディア、政治家、市民、学生も集まったグループで、同年から毎年1回、シンポジウムを続けている。
テーマごとにさまざまな意見
元参議院議員の鈴木寛・事務局長が、協議会活動の10年を振り返った。医師の刑事告訴に反対する署名運動をし、問題解決の先頭に立った佐藤章・福島県立医大名誉教授の死にも遭遇した。その後のシンポジウムではさまざまな問題に本音で議論した。医療事故調査制度ができ、ポリオ不活化ワクチンの導入、医学部の新設などが実現した。医師は死の直前まで仕事をし、残業する建前など、まだまだ医療界の不思議は多い。今後ともシンポジウムを続けていく必要性を強調した。
「医療改革」「東北の医療」「がん」などのテーマごとにさまざまな意見が出た。満岡渉・諫早医師会副会長は、10月からスタートした医療事故調査制度を評価しながらも、実際には再発防止よりも、弁護士によって紛争解決の手段として利用される懸念が大きいと警告した。
また、テレビディレクターの岩澤倫彦さんは2014年の胃がん検診バリウム検査で、大腸穿孔が68例、腸閉塞7例、アナフィラキシーショック3例もの事故が起きたと報告。危険性が隠されている背景に、企業や検診団体、自治体幹部、研究者の「検診ムラ」的結びつきがあると批判した。
シャロン・ハンリー北大特任助教は、日本では副作用被害報道から普及していない子宮頸がん予防のHPVワクチンが、世界129カ国で使われ、64か国で公費助成され、ブータン、マレーシアなど接種率9割以上の国も増えている現状を報告した。ワクチンは常に効果と副作用を比較して使われるが、世界と日本のあまりにも大きい格差に疑問を投げかけた。
(医療ジャーナリスト・田辺功)