12月に入り、おせちの準備を「本気」で考える時期がやってきた。最近はデパートやスーパーに加えて、ネット通販も選択肢の主流になってきている。楽天市場でのおせち流通総額は、2010年から13年までの4年間で約1.8倍に増えた。消費者のニーズに合わせて、ハムや魚卵、スイーツや豆腐といった、特定の食材にスポットを当てた「○○だけおせち」が注目を集めるなど、その内容や種類も多様になってきている。
おせち料理の製造・販売や提案を主力業務の一つにしている「博多久松」(福岡県)は楽天市場の「グルメ大賞(ジャンルごとに1位だった商品に与えられる賞)」を9年連続で受賞しているリーディングカンパニーだ。おせちのネット販売でパイオニア的存在の同社が、その分野の頂点に立つまでの取り組みをみると、現代のおせち作りに必要なノウハウを積み重ねてきたことが分かる。
「長持ち、ヘルシー、高品質」冷凍のメリットいろいろ
久松が手掛けるのは「冷凍おせち」だ。長期保存ができるため、冷蔵のおせちのように長持ちさせるための濃い味付けにする必要が無く、薄味でヘルシーな味付けになっている点が人気を集めている。冷凍されているので作ってから食材が傷みにくく、配送中に中身が寄ってしまうこともない。
久松は冷凍に適した食材の組み合わせ、調理法の思考錯誤を重ねることで、その質を高めてきた。料理の品質向上に加えて、最近は冷凍技術が進歩したこともあり、「解凍したらべちゃべちゃになった」「パサパサになった」といった味の劣化も少なくなっているという。冷蔵庫で約24時間かけてゆっくり解凍すれば"出来立て"と変わらぬ味わいが楽しめる。
久松は2004年からネットで販売を行っており10年以上の"キャリア"を持つ。数多くの店がネットでのおせち販売に参入する中、久松がトップを独走し続ける背景には消費者のニーズに合わせて柔軟な商品開発を展開してきた企業努力があった。
ネット参入前、久松は婚礼用の料理食材の卸売に力を入れていたが、時代と共に披露宴の規模が縮小するにつれて売り上げが伸び悩むようになっていたという。そこで事業の多角化の選択肢に浮上したのがネット通販だった。
「おせち文化を若者に継承したい」という想い
楽天市場に参入した当初は結婚式の料理の取り扱いがメインだったが、売り上げゼロの日が続くなど苦戦を強いられた。そこでおせちを試しに90セット販売したところ、1週間で完売。手ごたえを感じた久松は、05年には思い切って2500セット分を用意。なんと、瞬く間に完売となった。これをきっかけに「ネットおせちには需要がある」と確信し、本腰を入れるようになった。
食材の質を上げるだけでなく、家族の年末の過ごし方の変化に伴って、2人用の小さなおせちや6~7人前の特大サイズ、おせちを味見したい人向けの「おためしおせち」、半分は自分で好きなものを詰められる「ハーフメイドおせち」など、消費者のニーズに沿った柔軟な商品展開を続けている。
おせち文化を若い世代に継承していくことを目指したユニークな取り組みも行っている。例えば楽天市場の店舗運営ノウハウを高校生向けにアレンジして電子商取引授業を行う「楽天IT学校」の企画として、福岡県大和青藍高等学校の生徒と共同でおせちをプロデュースした。
授業はチームごとに使用する食材の試食選択から販売ページの制作まで一通り商品企画を体験してもらい、出来上がった商品を実際にネット販売するというもの。それぞれのチームの売り上げ、商品ページのアクセス数などを分析しながら改善を加えていき、ネット販売の仕組み全体を実践的に学んでいく。結果、高校生プロデュースのおせちは楽天のデイリーランキングにも入った。
企画を振り返り、おせちの販売と真剣に向き合う姿勢や、伝統的な食材をバランスよく組み合わせる努力、問題点への取り組み方など、高校生ながらに全力で取り組む姿に学ぶ点が多かったという。今後も若者におせち文化を伝える機会を増やしていく方針だ。
久松は「2016年新春おせち特集」を行っており、その中で高校生がプロデュースした5種類のおせちも販売している。
魚卵、ハム、スイーツ...「好きなモノを心行くまで食べたい!」願いを叶える「○○だけおせち」も登場
さらに今年は、特定の食材に的を絞った「○○だけおせち」が数多く登場したことにも注目が集まる。
例えば、北海道のおせち専門店・小樽きたいち(北海道小樽市)と楽天市場がコラボレーションした「魚卵おせち」はいくら、数の子、キャビア、からすみなど魚卵を使った料理が11品入った贅沢な内容。他にも農場から直送するハムの専門店がさまざまな種類の自家製ハムを詰めた「ハムだけおせち」や、京都・宇治の抹茶スイーツ専門店でつくった「京菓子おせち」、パティシエ監修のスイーツオードブルを楽しめる「スイーツおせち」などユニークな商品がラインナップしている。また、お豆腐専門店が作る豆腐創作おせちや歯ぐきでつぶせるやわらかおせち、ペットの犬専用のおせちも登場したりと、ネットおせちは多様なニーズに合わせて進化を遂げているのだ。