多民族国家のインドでは、いわゆる公用語にあたる各地方政府の「指定言語」が20数種あり、方言や少数民族の言葉を入れると約800種の言語がある。このため、複数の言語を話すバイリンガルの人が多い。
バイリンガルは1つの言語しか話さないモノリンガルに比べて、認知症にならない確率が2倍以上高いという研究をインド・ニザム医科学大学のスバーラナ・アラディ博士らのチームがまとめ、2015年11月19日付の国際精神医学誌「Stroke」電子版に発表した。
公用語が4つもある都市の病院を訪ねると
アラディ博士らはバイリンガルが認知機能に与える影響を調べるため、多くの民族が集まり、4つの公用語を使うインド中南部の都市ハイデラバードに着目。市内の病院に入院する18歳以上の脳卒中患者608人のデータを調べた。脳卒中を起こすと、言葉を喋れるか、記憶力が残っているかなど、回復後の認知機能に個人差が大きく出る。もともとインドでは、バイリンガルは、モノリンガルより認知症になりにくいことが知られており、アラディ博士は、脳卒中後の症状の個人差は、もともと持っている言語能力に関連があるのではないか、という仮説を立てたのだ。
608人のうち、バイリンガルは353人、モノリンガルは255人だった。脳卒中発症後の認知機能の正常度を比べた結果、正常な患者の割合がバイリンガルは40・5%で、モノリンガルの19・6%の2倍以上だった。ただ、失語症になった割合だけは同じ数値だった。
いつも脳に知的刺激を与える習慣を
今回の結果について、アラディ博士はこうコメントしている。
「失語症の発症率が同じだったのは、言語能力が優れているから認知症になりにくいというわけではないことの証明です。バイリンガルに認知機能が正常な人が多かったのは、複数の言語を話す能力のおかげではなく、相手によって言語をすぐに切り替える日常の習慣が脳にいい影響を与えているのです。この結果は、モノリンガルの人も他の言葉を覚えなさいと言っているのではなく、いつも脳に知的刺激を与える習慣を持ちなさいと教えているのです」
なおJ-CASTヘルスケアでは2015年11月18日、「カレーを食べるインド人はボケにくいってホント?」という記事を掲載したが、インド人が認知症になりにくいのはカレー以外の要素もあったようだ。