「大動脈瘤破裂胸腔内出血」で急逝した俳優の阿藤快さん(69)は、以前から背中の痛みを訴え、マッサージを受けるなどしていたという。
なぜ、胸部の疾患の症状が背中の痛みとして現れたのか。患部と直接関係がないところに痛みが生じるというのはよくあることなのだろうか。
患部と異なる場所が痛む「関連痛」
阿藤さんは2015年11月15日、自宅で亡くなっていたのを所属事務所の関係者らが発見した。その後の発表によると、「大動脈瘤破裂胸腔内出血」だった。
「大動脈瘤」とは、心臓からほかの動脈へとつながる太い動脈「大動脈」の血管壁が弱くなり、瘤(こぶ)のようにふくらんでしまう疾患だ。大動脈に限らず、動脈のある部位であれば、どこにでも発生する可能性はあるが、特に腹部と阿藤さんの例のように胸部が多い。
この瘤を治療せずに放置していると、破裂して内出血を起こすことがある。瘤の大きさや破裂の程度にもよるが、急速にショック状態に陥り、死亡する例も少なくない。
大動脈瘤は破裂しない限り基本的には無症状で、破裂した場合に激痛を伴うとされているが、阿藤さんは亡くなる1~2週間前から事務所関係者や舞台の共演者らに「背中が痛い」と訴えていたと、複数のテレビ番組などで取り上げられた。この症状は一体、なんだったのだろうか。
実は、瘤が非常に大きくなっていた場合、血管の周囲の組織を圧迫し、胸部の場合は背中の痛み、腹部の場合は腰痛、といったように、瘤が発生している場所から少し離れた部位に痛みがでることがあるのだ。
こうした「原因となる部位から離れた部位に感じる痛み」は「関連痛」、特にかけ離れている場合は「放散痛」と呼ばれ、大動脈瘤に限らず、さまざまな疾患で見られ、特に珍しい症状ではないという。
例えば、心筋梗塞や狭心症など心臓の疾患の場合、胸の左側が痛くなりそうなものだが、上腕部や左肩から背中、首や顎、さらには歯の痛みとして感じることがある。胆のうや肝臓の疾患の場合は右肩、肺やすい臓の場合は左肩、腎臓は腰に痛みが表れる。
ちなみに、普通は原因となっている疾患が治れば、痛みも解消される。
疾患ではないが、身近なものでは「アイスクリーム頭痛」も関連痛の一種とされる。冷たいものを勢いよく食べるとこめかみや目の奥が痛む、という現象だが、刺激を受けているのは喉なのに、額やコメカミなどに刺激を受けたと脳が勘違いをし、頭痛という形で表れているのだ。
ただの肩こりや腰痛との見分けかたは?
難しいのは、肩や腕、腰の痛みが内臓疾患の症状だとしても、痛みを感じている患者側には、単なる肩こりや腰痛との違いがわかりにくい点だ。確実に診断するには医療機関に行き、医師の診察を受けることになるが、「なんだか肩が痛いな」と感じるたびに病院へ、というのも現実的ではない。
北里大学北里研究所病院の外科・血管外科、金田宗久医師も「痛みから見分けるのは難しい」という。
「動脈瘤の患者さんの場合ですが、痛みを感じたら、まず『痛くても動かせるか』『痛くない姿勢はあるか』『動かしたときに制限があるか』などを試してみるようお話しています」
体の動きや姿勢に関係なく痛むが、動きが制限されるわけではないという場合は、医療機関を受診する目安となる。
「夜間に急に痛くなったり、痛みが徐々に増してくる場合も、すぐに受診する必要があります」(金田医師)
また、痛みがいつ起こったのか、どのような状況で痛みを感じるのか、といった情報も把握しておきたい。
上半身を使った運動はしていないのに肩や背中が痛くなる、食事のあとに肩が痛くなる、といった痛みかたは関連痛や放散痛の可能性がある。また、そうした状況が説明できれば、医師が診断する際のヒントにもなるだろう。[アンチエイジング医師団取材TEAM/監修:北里大学北里研究所病院外科・血管外科 金田宗久]
アンチエイジング医師団
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