栃木県宇都宮市に住む無職の女(34)が別居中の夫(33)を猛毒「リシン」で殺害しようとした事件が波紋を広げる中、人気ハリウッドドラマに同じ手口が登場していることが「発掘」され、話題となっている。
比較的簡単に入手でき、なおかつ毒性が強いため、リシンは今まで数多くの事件に使われてきた。
「ブレイキング・バッド見たんじゃないの」
2015年11月30日に殺人未遂の容疑で逮捕された女は、夫の自宅に侵入し、紙パック入りの焼酎にリシンを混ぜた疑いが持たれている。女の自宅からは種にリシンを含む植物「トウゴマ」も押収された。
リシンは、米人気ドラマ「ブレイキング・バッド」に登場していた。妊娠中の妻、脳性麻痺を患った長男と暮らす主人公の高校教師が、自身のがん発覚をきっかけに、家族に財産を残すため、覚せい剤の密売に手を染める様子を描く。
ともにドラッグを密売するかつての教え子と、メキシコの麻薬カルテルに属するドラッグディーラーを暗殺するため話し合う。詳しい抽出法まで描かれていないものの、リシンをまぶした覚せい剤をディーラーに使わせ、毒殺する計画が持ち上がる。
日本でもファンが多いだけに、今回の一件が報じられると、
「完全にブレイキング・バッドの影響」
「抽出方法をブレイキング・バッドで知ったのか?」
「ブレイキング・バッド見たんじゃないの」
との指摘がツイッターに寄せられた。
暗殺とは直接関係ないものの、日本の作品にも登場している。主人公の高校生が様々な困難を乗り越えながら格闘技や喧嘩の腕を磨くマンガ「喧嘩商売」には、ピンチに陥った主人公が「柿の種のピーナッツ」を敵に食べさせた上で、「トウゴマの種だ。猛毒のリシンが入っている」と脅しをかけながら難を逃れる場面がある。
ブルガリア出身作家の暗殺にも使われる
リシンはトウゴマの種から「ひまし油」を取り除いた絞りかすに含まれ、わずか0.15ミリグラムほどの量で体重50キロの人間を死亡させる猛毒だ。その毒性は青酸カリをはるかにしのぐと言われる。
リシンは過去にもしばしば暗殺やテロ事件に用いられてきた。
摂取後10時間ほどは中毒症状が現れず、解毒剤もないため、犯行がばれにくい。比較的よく知られているのは、ブルガリア出身の作家・ゲオルギー・マルコフ氏のケースだろう。1978年、イギリスのロンドンでバスを待っている途中、何者かに襲撃され、リシンを含んだ弾丸が命中した。そのまま数時間後に体調を崩すと、3日後に入院先の病院で亡くなった。マルコフ氏がブルガリアからの亡命者だった関係で、ブルガリア政府や旧ソビエト連邦の関与が疑われたものの、実行犯は捕まっていない。
2013年にはオバマ大統領やニューヨークのブルームバーグ市長あてに相次いでリシンの入った封書が届き、米女優など複数人が逮捕された。