さっとバットを置いた王、「もう1年」待った長嶋
ずっとグラウンドでプレーしたい、と思っているのが選手というものなのである。クビを言い渡された選手の告白を聞いたことがある。
「一生、野球ができると思っていた。野球を辞めろ、と言われたときは、頭が真っ白になった」
この選手は並の成績しか残していないが、そんな選手でも生涯野球と信じ込んでいる。子供の頃から夢中でやってきた自慢の技術を捨てざるを得ないのは、本当に苦しいらしい。
松中、川上はここしばらくは働いていないので、逆に引退することに納得がいかないのだろう。常時、打席に立ち、マウンドに登り、その上で自らに引導を渡したいのかもしれない。
大物選手の引退劇はいろいろなタイプがある。
さっとバットを置いた王貞治。最後のシーズンは30本塁打をマークしたが、それは自分の本数ではないと判断したようである。
もう1年、と引退を延長したのが長嶋茂雄。余分な1年とも言われたけれども、自分で納得して辞めた。
生涯一捕手を貫いたとして知られる野村克也。現役は26年、3000試合を超えた。最近はこの野村型が多い。
いうまでもなくプロ野球の世界は実力次第である。今シーズン終了後、40歳代の選手が次々とユニホームを脱いだ。松中、川上が新たな球団で復活すれば、ベテランへの期待度は上がるかも知れない。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)