さわやかな風を受けながら颯爽と走る自転車。いま、サイクリングが空前のブームである。自転車で通勤する「ツーキニスト」や、旅する自転車愛好家の愛称「チャリダー」という言葉も定着した。
「エコにもなるし、健康にもよい」......はずで始めた自転車なのに、オトコの体に良くないなんて!?
硬いサドルが局所を圧迫。ED発症率は非サイクリストの3~4倍。
答えは、残念ながらホントのようなのだ。ただし、ママチャリを普通に乗っている分にはまったく心配ない。問題は、きつい前傾姿勢をとるスポーツタイプのロードバイク。硬く細長いサドルに局所(会陰部)を圧迫されながら何時間も走る生活を続けると、ED(勃起不全)のリスクが高まることがわかってきた。
1997年、米国泌尿器科学会が衝撃的な調査を発表した。ボストンの男性サイクリストとランナーを比較した結果、「中程度~完全なED」である者は、ランナー群が1.1%だったのに対し、サイクリスト群は約4倍の4.2%だった。1999年、独ケルン大学が、アマチュアの長距離サイクリストと非サイクリストをアンケート調査してED発症率を調べた。非サイクリスト群が3.9%だったのに対し、サイクリスト群は13.1%だった。
米国には自転車でパトロールする警官が多く、ペニス周辺の「痛み」や「しびれ」を訴える者が絶えない。そこで2008年、米国労働衛生研究所が、会陰部に当たらないようサドルの先端部分をカットした「ノーズレス(鼻先がない)型」の自転車を警官に半年間使ってもらい、「勃起に与える影響」や「ペニスの敏感性」などへの効果を調べた。すると、ペニスの「しびれ」「痛み」を感じる度合いが73%から18%に減り、「勃起しやくなった」「ペニスが敏感になった」という人が増える結果がでたのだ。
こうした海外の「自転車ED」研究を受けて、日本性機能学会も2012年版の「ED診療ガイドライン」から、「自転車は注意が必要」「乗車時間とEDの間には明らかな相関関係がある」と記載し注意を促している。
乗り過ぎると前立腺の炎症が起こり、無精子症の心配も
では、どういうメカニズムで「自転車ED」が起こるのだろう。勃起は、性的興奮状態になると、脳の勃起中枢から神経を伝わってペニスに指示が行き、ペニスの海綿体に血液が充満して起こる。一方、会陰部のサドルに当たる部分にはアルコック管という部位があり、この中に勃起に重要な役割を果たす動脈と神経が走っている。この狭い部位に体重がかかって圧迫されると、アルコック管が損傷して、中の血管と神経がダメージを受ける。また、サドルが会陰部を長時間刺激すると、前立腺の炎症が起こりやすくなる。炎症が起こると精液に白血球が混じり、白血球中の活性酸素が精子のDNAを破壊するおそれもある。これが無精子症だ。
ウエアも「オトコ」に優しい涼しい物を
では、サイクリストはどのように気をつければいのだろう。日本性機能学会副会長の永尾光一東邦大教授は、サイトの中でこうアドバイスしている。
「自転車EDは慢性的な圧迫で起こるもので、一日遠出したからといって直ちに影響するわけではない。ただ、毎日乗っていて、しびれなどの違和感がある人は硬いサドルはやめた方がいい。また泌尿器科に相談してほしい」。
最近はサドルも、ジェル入りのやわらかいカバーや、会陰部に当たらずに乗れるよう三日月形の物、中央部分に溝を設けている物など、「ED防止」用の物が多く登場している。また、競輪選手のような下半身に密着したウエアも、睾丸の温度を高めて精子に悪影響を与えると指摘する専門医もいる。睾丸は体温より2度くらい低い状態がベストだ。よく「ブリーフよりトランクス、一番いいのはフンドシ」というが、ウエアは風を通す素材の涼しい物が「オトコ」に優しいのだ。長距離ライディングの最中には時々腰を浮かせて、血流を促すと同時に冷やしてあげよう。
「自転車ED」は、乗車時間と発症率を調べたデータがなく、「1日何時間までなら大丈夫」と数字で表せないのが厄介だ。「過剰に乗り過ぎないで」としか言いようがない。だから、初心者よりも中上級者に気をつけてもらいたい。1969年、自由を求めてオートバイで走る映画「イージー・ライダー」が人気を集めた。くれぐれも「イーディー(ED)・ライダー」にはなってほしくないものだ。