味の素の「グリナ」は、睡眠をテーマにした機能性表示食品としては第1号だ。ただ、商品の発売自体は10年前にさかのぼる。
主要成分は、アミノ酸のひとつ「グリシン」。アミノ酸研究では100年に及ぶ味の素だが、グリシンが眠りに効果があるとの発見は、偶然からスタートした。
調査では「睡眠に不満あり」7割、「日中に眠気」8割超
グリナの特性は、就寝後に間もなく訪れる深い眠り(深睡眠)をすみやかにもたらす点にある。人は睡眠中に深い、浅いそれぞれの眠りの周期を繰り返すが、深睡眠は加齢やストレスにより失われてしまう。寝る前にグリナを飲めば、短時間で深睡眠にたどりつけるようになるのだ。
「昨夜は長時間寝たのに、疲れがとれていない気がする」「仕事中に強烈な睡魔に襲われた」「朝、布団から体を起こしてもボーっとしたまま」――当てはまる人もいるのではないだろうか。味の素が2015年7月、全国の20歳以上の男女1200人を対象に実施した睡眠意識調査では、睡眠の質について過去1か月間に週3回当てはまるものを答えてもらったところ、「非常に不満である、あるいは全く眠れなかった」が4.5%、「かなり不満」が15.3%、「少し不満」が49%となり、睡眠に不満を抱えている人が全体の7割近くに及んだ。さらに、日中に眠気を感じているとの回答は8割以上にも上った。
グリナの主な購買層について、味の素ウェルネス事業部専任課長の斉藤典子さんは、加齢により眠りが浅くなるといわれるシニアと、「忙しくて睡眠不足になりがちな働き盛りの世代」を挙げた。加えて、赤ちゃんの夜泣きで何度も目覚める子育てママや、仕事の時間が不規則でまとまった睡眠がとれない人も含まれる。
不眠となると思いつくのが睡眠薬だ。文字通り薬であり、起きている状態でも眠気を誘発させる。一方グリナは食品で、眠る際に自然に深睡眠へと導くサポートをするもので、両者の性質は異なる。これまでは、「眠れない」と深刻に悩む人がグリナに頼るケースも少なくなかった。睡眠は食事や運動と並んで、健康に欠かせない要素。斉藤さんは、病気でなくとも眠りに対して不満を抱えている人の「解決策」のひとつとして、幅広く使ってもらいたいと話す。
品質コンセプトはそのままでエビデンスを積み重ねてきた
グリナに含まれるグリシンは、ホタテをはじめ魚介類に多く含まれる。深睡眠を速やかにもたらす用途としてのグリシンの活用は、味の素が特許を取得した。その効果の発見過程は、ちょっとユニークだ。
アミノ酸に関するある臨床試験に、同社の研究員が被験者として参加していた。朝と夜に服用すべきアミノ酸を飲み忘れ、夜に2回分飲んで寝たところ、就寝中のいびきがなくなって翌朝の目覚めが壮快だったという。実は研究員が飲んでいたのは、「対照食」(実際に調べたい成分とは別の成分が入ったもの)として与えられたグリシンだったのだ。研究員本人が検証を続けたところ、グリシンの服用を繰り返すと、熟睡した感覚や疲労感の軽減について再現性があり、グリシンの眠りの効果への可能性について本格的な研究に入ったのだという。
当初は、どんな指標を用いて「睡眠の質が向上した」と判断するかをはじめ、確証ある臨床データを得るための試験の手法づくりから始めたそうだ。大学や専門医の知恵を借りて試行錯誤しながら、例えば就寝中の脳波を測定して波長を調べたり、被験者にアンケートを実施して「目覚めた時の感覚」を聞いたりした。最初の「発見」から3年後の2005年、グリナが誕生。「眠りをテーマにした食品は、味の素でも初めてでした」(前出の斉藤さん)。
発売後、7300万食以上が販売されて「十分な食経験」があることから、消費者庁に機能性表示食品として届けを出し、受理された。品質コンセプトは過去10年間、大きく変わっていないが、エビデンス(科学的根拠)を積み重ねてきたことで消費者にどんなメリットを提供できるかを詳しく説明できるようになった。現在は通信販売のみの取り扱いで、パッケージの側面にグリシンが深睡眠をもたらす旨の「届出表示」の内容が記載されている。
斉藤さん自身、出張時など睡眠時間が少ないときや、翌日が休みで「ぐっすり眠りたい」というときにグリナを服用しているという。「睡眠の質が向上すれば、生活の質にも好影響をもたらします。お客様からは『ぐっすり眠れるようになった』との声をいただいています」。