2015年の沢村賞投手、広島の前田健太が大リーグに挑戦することになった。日本のプロ野球界は「大リーグの人材補給源」をこのまま続けるのか。
前田が球団に大リーグ行きの意思を伝えたのは2015年11月24日のことである。
「侍ジャパン」の好投がカギに
「大リーグ行きの思いは、年々強くなっていた」
2年ほど前から大リーグを意識していることを明らかにしていたから、周囲は「その時期か」と冷静に受け止めている。
ちなみに、この日はベストナイン発表と重なり、前田はセ・リーグの投手に選ばれた。沢村賞も受賞しており、文字通り現在のNo.1投手となった。
移籍の方法は大リーグ球団の入札となるポスティングシステムを利用する。前田が海外フリーエージェントの権利を取得できるのは17年。1年前に移籍することで球団には多額の資金が入るため、もめることはないだろう。
最近では、楽天からヤンキースに入団した田中将大もいる。
「広島で優勝したいという気持ちは当然ある。それよりも大リーグで投げたい気持ちの方が強かった」
決断までに悩んだのだろう。
侍ジャパンで好投したことが最後の確認になったのではないか。大リーグのスカウトも使えると判断し、声をかけたことは予測できる。ピッチングだけでなく、フィールディングが抜群であることも高い評価につながったはずだ。
続々と太平洋を渡るNo.1投手たち
来シーズン、前田の真っ向勝負のピッチングを見ることができないのは、ファンにとってつらいことである。思えば、ダルビッシュ有、田中といったNo.1投手が日本を去った。
いずれも全盛時を迎えたときの移籍だった。前田も同じである。
選手個人のことを考えれば、最高レベルの大リーグ挑戦はアスリートとして当然の思いといえる。それを理解するファンもいれば、プロ野球からいなくなる寂しさを感じるファンもいる。
ただ、ファンあってのプロ野球ということを考えると、No.1投手が次々と太平洋を渡って行くのはどうしたものか、と思う。日本で大投手の快刀乱麻の投球を見たいと思うのはファンの当然の心情である。日本が「大リーグの人材補給源」と位置付けされるのは面白くない。
これまで大リーグでプレーした選手をみると、投手は野手に比べ活躍している。マリナーズの岩隈久志はノーヒットノーランを達成。野茂英雄と並ぶ快挙である。
一方、野手は厳しいのが現状。いわゆる「出戻り」が多い。今シーズンを振り返ると、阪神の福留孝介、西岡剛、ロッテの井口資仁、楽天の松井稼頭央、日本ハムの田中賢介らがいる。このなかで外野手の福留と二塁手の田中がベストナインに選出された。日本ならまだ使えるという証明なのだが、全盛時の姿を見たかった。
前田にはメジャーで頑張ってほしいと期待する半面、日本球界に「惨めな形で戻ってきてくれるな」と願うばかりである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)