高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
「軽減税率」の自公間協議 安倍首相が「一歩引く」理由

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   自民党と公明党との間で、なかなか軽減税率の話がまとまらない。(2015年)12月の税制改正大綱の時期が近づいてきたので、まとめたいところが、すんなりといっていない。

   自民党と公明党の間の協議であるので、政府(官邸、財務省)は形式的には部外者だ。しかし、自民党のバックには財務省が控えている。もちろん、財務省は公明党にもアプローチしていた。

  • 「官邸が密かに期待している」こととは
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財源額をめぐる混乱

   軽減税率の落としどころは結構難しいので、財務省は早くから自民党と公明党の間と調整して、マイナンバーを利用した対策案を持っていた。ところが、これが世間の大反発を受けた。そもそもマイナンバー制度は初めてのもので、これまでも世帯通知さえスケジュール通りになっていない。政策を考えるときに、安定した制度を前提にすべきとの政策のイロハも忘れており、財務省のマイナンバーを利用した対策案は、現時点では典型的な机上の空論だった。

   財務省案が頓挫した後、議論は迷走した。筆者は財務省のマイナンバー案はせいぜい打ち出し案で、その後に本命案が出てくるかと思ったが、まだない。かつての財務省なら、二の矢、三の矢が出てくるのだが、どうも劣化しているようだ。

   ただし、軽減税率で、今の自民党・財務省の連合のままでは、公明党に勝ってしまうので、公明党の後ろで官邸が援護している。

   11月24日の首相・谷垣幹事長会談や25日の自公幹事長協議に絡み、軽減税率のための財源は4000億円とするという報道が流れた。一部報道では、4000億円は安倍首相の指示とされたが、官邸の菅官房長官は「具体的な数字は言っていない」といい、官邸は、自民・財務省と公明のバランスをとっているようだ。

   もっとも、4000億円という数字は、打ち出しとしては妥当だ。というのは、5%から8%への消費増税では、3%分増税の緩和措置として簡素な給付金が、地方税を払わない低所得者に対して給付されており、その財源は6000億円だ。10%への消費再増税となれば、2%分で4000億円になる。

   4000億円だと生鮮食品だけで加工食品は含まれない。政治的には4000億円に増額調整が加えられて、自公間では決着するだろう。

「軽減税率の検討」は無駄骨に終わるかも

   官邸が一歩引いているのは、2017年4月からの消費再増税へのコミットをしないためだ。安倍首相は、「リーマンショックのようなことがない限り消費再増税を行う」と言っている。マスコミは、この発言を「消費再増税」は決断済みと報道する。しかし、政治レトリックからみれば、この発言は、TPPについて「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉に参加しない」と言っていたのと同じレベルだ。実際には、TPPへは参加する、つまり、「聖域なき関税撤廃」ではなかったからだ。

   今の経済状況はどうだろうか。人によっては「リーマンショックのようなこと」ではないかもしれないが、安倍首相が「リーマンショックのようなこと」といえば、誰も反対しないだろう。要するに、消費再増税の判断は安倍首相に委ねられている。

   その判断のタイミングは、来(16)年の参院選の直前である。その時までは、できるだけフリーハンドをとりたいに違いない。その意味から、軽減税率に官邸が一歩引いているのだ。

   筆者の直感でいえば、とても消費再増税を判断できる状況ではない。消費再増税がなければ、軽減税率もない。その意味で、軽減税率の検討は無駄骨に終わるかも知れないので、なおさら一歩引きたいはずだ。

   さらに、軽減税率対象は生鮮食品かどうかという話なので、どう考えても新聞が対象になる可能性は限りなく低い。この際、軽減税率を期待していたマスコミが怒って消費再増税の反対にまわることを、官邸は密かに期待しているのではないか。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「『まやか しの株式上場』で国民を欺く 日本郵政という大罪」(ビジネス社)など。


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