「軽減税率の検討」は無駄骨に終わるかも
官邸が一歩引いているのは、2017年4月からの消費再増税へのコミットをしないためだ。安倍首相は、「リーマンショックのようなことがない限り消費再増税を行う」と言っている。マスコミは、この発言を「消費再増税」は決断済みと報道する。しかし、政治レトリックからみれば、この発言は、TPPについて「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉に参加しない」と言っていたのと同じレベルだ。実際には、TPPへは参加する、つまり、「聖域なき関税撤廃」ではなかったからだ。
今の経済状況はどうだろうか。人によっては「リーマンショックのようなこと」ではないかもしれないが、安倍首相が「リーマンショックのようなこと」といえば、誰も反対しないだろう。要するに、消費再増税の判断は安倍首相に委ねられている。
その判断のタイミングは、来(16)年の参院選の直前である。その時までは、できるだけフリーハンドをとりたいに違いない。その意味から、軽減税率に官邸が一歩引いているのだ。
筆者の直感でいえば、とても消費再増税を判断できる状況ではない。消費再増税がなければ、軽減税率もない。その意味で、軽減税率の検討は無駄骨に終わるかも知れないので、なおさら一歩引きたいはずだ。
さらに、軽減税率対象は生鮮食品かどうかという話なので、どう考えても新聞が対象になる可能性は限りなく低い。この際、軽減税率を期待していたマスコミが怒って消費再増税の反対にまわることを、官邸は密かに期待しているのではないか。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「『まやか
しの株式上場』で国民を欺く 日本郵政という大罪」(ビジネス社)など。