日頃からトレーニングを重ねて体を鍛えていれば、高齢者でもツール・ド・フランスの選手並みの持久力が得られるという研究成果をデンマーク・コペンハーゲン大学のチームがまとめて2015年11月、米臨床医学雑誌「AJCN」に発表した。
人間の運動強度を測る指標はいろいろある。たとえば、運動中のエネルギー消費量が安静時の何倍にあたるか表す指標に「メッツ」がある。庭掃除なら3、体操なら3.5、早めのウォーキングなら4......などと、高齢者に勧める運動の健康効果の目安にされている。
体力の限界までどれだけ持久運動を続けられる?
ところが、自分の運動能力を最大に発揮して、どれだけの長時間頑張り続けられるかを表す「最大努力運動能力」は、年齢とともに衰えるのかどうかについては、これまで研究されたことがなく、解答はなかった。「最大努力運動能力」は、体力の限界まで持久運動を続けた時に、基礎代謝の何倍のエネルギーを消費したかで測られる。つまり、トップアスリートと同様のエネルギー発揮能力に年齢の壁があるかどうかだ。
そこで研究チームは、普段からランニングや水泳などで鍛えている46~71歳(平均年齢61歳)の一般男性6人を対象に、コペンハーゲンからノルウェーのノースケープまで2706キロを、サイクリングで2週間かけて走破してもらった。6人とも完走した。この間、研究者たちは6人に付き添い、エネルギー消費&摂取量、体脂肪率、心拍数、血中のインスリン濃度などのデータを取り続けた。
その結果は驚くべきものだったという。6人が消費したエネルギー量の平均はそれぞれの基礎代謝の3.9~4.1倍(平均4.0倍)だった。これは「地球上で最も過酷なレース」といわれるツール・ド・フランスの選手の平均である「4.3倍」にほぼ匹敵する。違うのは、ツール・ド・フランスが高低差2000メートル、全距離3300キロの熾烈なコースを走破するのと、かかった時間である。
トップアスリートとの唯一の差が胃腸の衰えに
この結果について研究チームのマッズ・ローセンキンドル博士はこう語る。
「中高年の世代でも、トップアスリートと同様のエネルギー発揮能力が可能であることに大変驚きました。6人はかなり高いレベルのスポーツを続けてきた人々ですが、運動を続ければ、年齢に関係なく、自分の体力の限界まで持久力を発揮できることがわかりました」
ただ、課題も残された。6人の中でも特に高齢の人に見られたが、消費したカロリーを十分に補うエネルギーの摂取ができない傾向があった。全員、サイクリング中は普段の2倍のカロリーを取っていたが、エネルギー消費に追いつかなかったのだ。ローセンキンドル博士はこう指摘している。
「彼らには食欲があり、もりもり食べていたのですが、胃腸などの体の機能が十分それに答えてくれなかったようです」