若い女性を中心に、性感染症の「梅毒」が流行している。国立感染症研究所によると、2015年10月28日時点までに、新たに梅毒に感染した患者数は、20~24歳の女性で177件と14年の2.7倍に急増した。
病原菌の梅毒トレポネーマは感染力が非常に強く、性的接触を通じて感染部位と粘膜や皮膚などに直接ふれることで感染する。後天性免疫不全症候群(HIV)の感染と同様に、医療機関は発見後1週間以内に都道府県知事への報告が法律で義務づけられている。
2011年から増加傾向、女性から男性への感染も
国立感染症研究所は「感染症発生動向調査(IDWR)2015年第44号」(10月26日~11月1日週報)で、「注目すべき感染症」として「梅毒」を取り上げた。
それによると、2014年に新たな梅毒の感染症例は、前年比37%増の1671件と急増。ところが2015年はそれを軽く上回り、10月28日時点で2037件の症例が報告された。前年同期と比べて1.5倍も増えている。
新規の梅毒患者は10年ほど前から増加傾向にあったが、2008年の831人をピークに10年には621人まで減った。ところが11年から再び増加。12年は875件だったから、わずか3年で2.3倍に急増したことになる。
すでに2015年9月13日時点(1701件)で14年の1671件を上回り、1999年以降(感染症法による動向調査)で最多となっている。15年はあと2か月あるので、さらに増えそうだ。
感染者を男女別にみると、男性の感染者は1463人で、前年から1.4倍増えた。女性の感染者は574人で、前年から2倍も増加した。
女性の感染者の割合は、2013年は全体の19%を占め、14年は23%、それが15年は28%を超え、じつに3割に迫る。女性の感染者が増えているのは割合だけでなく、絶対数も増えている。なかでも20~24歳の女性は177人で、前年同期と比べて2.7倍という急増ぶりだ。
また、感染ルートをみると、2014年は男性同士の性的接触による感染が増えたが、15年は男女ともに異性間の性的接触による感染が増えている。つまり、男女間での性行為で梅毒の感染が急増しているわけだ。
2015年の異性間の性的接触による感染は、男性が615件で前年比1.7倍、女性は405件で2.1倍にのぼった。ちなみに、男性の同性間による性的接触による感染は487件で、前年比1.0倍だった。
これまで梅毒患者の8割は男性で、女性の患者は男性との性行為によって感染するケースがほとんどだった。ところが、ここ数年は女性の患者も増えて、男性も女性との性的接触から感染するケースが多くなっている。つまり、男性から女性へ、そして女性から男性へという悪循環に陥っているようなのだ。
感染3か月後、全身の皮膚にピンクのブツブツが現れる
梅毒の症状は、感染から3週間後に感染した個所に痛みのないしこりが現れ、3か月後には全身の皮膚にピンクのブツブツが現れてくる。特効薬のペニシリンで治療できるが、その後は潜伏期に入り、放置しておくと約3年後あたりから全身の臓器に腫瘍が現れて、脳にも障害が出て死に至ることが多いとされる。
国立感染症研究所によると、感染後にしこりやブツブツが出る3週間~3か月に現れる症状を見過ごしてしまい、治療をしないまま潜伏期に入ってしまった患者が多いとみている。梅毒は早期発見で治療を開始すれば、1か月以内に完治するケースがほとんど。しかし、感染後、放置したまま治療が遅れると悪化して長期化する恐れが高まる。
また、前出の「IDWR 2015年第44号」には、妊娠中に胎児に感染すると死産や障害につながる「先天梅毒」の症例も10例が報告されていた。
その半面、予防もなかなか難しい。コンドームの使用が一般的だが、性器以外でも患部が発症する可能性があるため、コンドームだけで「100%」の予防はできない。オーラルセックスやディープキスなどでも感染する可能性があるわけだ。
インターネットでは、
「梅毒こえええええ! 昔の病気と思いこんでた」
「梅毒って性病だよね? 女性に急増してるって世も末だな」
「性教育を疎かにした結果だ。家庭も学校も二の次にしてる」
「母子感染については妊娠初期に産婦人科で検査があるけど... 梅毒には潜伏期間あるからなぁ。ちょっとこわい」
「コンドームつけないでセックスするからだよ」
などといった声が寄せられている。
2015年になぜ梅毒患者が急増しているのか、また若い女性が急増しているのかはわかっていないが、国立感染症研究所は「不特定多数の人との性的接触はリスク。その際にコンドームを使用しないことは、そのリスクを高めることになります」と、注意を呼びかけている。