大阪W選暴行事件で再燃した「ご苦労さま」論争 目上に使うのは「お疲れさま」だけなのか

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   大阪府知事、大阪市長のダブル選後、思わぬ形で「ご苦労さま」「お疲れさま」という2つの言葉があらためてクローズアップされ、ネット上で議論が広がっている。

   きっかけは、2015年11月22日夜、投票所を訪れた男(47)が投票管理をしていた男性(70)の「ご苦労さん」に激高する、という一風変わったトラブルだった。「『ご苦労さんです』は目上の者に使う言葉ではない」。男はそう言い放つと、投票所の机をひっくり返し、投票管理者の頭を平手打ち。「机の角を脳天に突き刺すぞ」などと脅した。

  • 「ご苦労さま」「お疲れさま」、上司に言うならどっち?(画像はイメージ)
    「ご苦労さま」「お疲れさま」、上司に言うならどっち?(画像はイメージ)
  • 「ご苦労さま」「お疲れさま」、上司に言うならどっち?(画像はイメージ)

サラリーマンと警察・自衛隊は違う?

   大阪府警はダブル選翌日の2015年11月23日、公職選挙法違反(投票管理者への暴行等)容疑でその男を逮捕。男も「今回のことはやり過ぎました」と容疑を認め、反省しているようだ。

   「ご苦労さま」、それに似た「お疲れさま」という言葉はルーツや使い分けの基準をめぐり、今まで数多くの議論が交わされてきた。投票所を訪れた男は、本人の中で目下と認識していた投票管理者に「ご苦労さんです」と言われ、いたく立腹した、としている。

   犯罪を犯した理由にはならないが、ビジネスマナーの視点で考え場合、男の言い分は正しいのか、間違いなのか。

   最近のサラリーマン社会では、「ご苦労さま」は目下に、「お疲れさま」は目上に、という認識はある程度共有されている。やや前のデータとなるが、2006年に文化庁が発表した「国語に関する世論調査」によると、「仕事後に掛ける言葉」は相手の職階が上だと約7割が「お疲れ様(でした)」、逆に相手の職階が下だと約4割が「御苦労様(でした)」となる。ビジネスマナー同様、職階に応じて使い分けているようだ。

   ただ、この使い方が絶対的に正しいとも言えない。国語辞典編纂者で日本語研究者の飯間浩明さんは15年8月6日のツイッターで、「『ご苦労さま』も『お疲れさま』も、目上に使えないということはありません」と説明している。かつては主君に対する臣下のあいさつとして、警察や自衛隊の改まったあいさつとして「ご苦労」が使われていたというのだ。

タモリも「子役に『お疲れさま』と言わせるな」

   歴史を紐解くと「ご苦労さま」の方が古くからあるようだ。NHKで大河ドラマなどの時代考証を担当する大森洋平同局ディレクターは自著「考証要集 秘伝! NHK時代考証資料」(文藝春秋 2013年)で、使う範囲が芸能界や花柳界などに限られた「お疲れさま」と違い「ご苦労さま」は身分や立場の上下を問わず使われたと明かす。その上で、「(お疲れさまは)日本の一般的伝統的なねぎらいの言葉ではない」と指摘した。

   では、「お疲れさま」がここまで「市民権」を得た理由は何なのか。言語学者の金田一秀穂さんは15年8月3日発売の「週刊ポスト」で「日本語には会った時に目上の人に対してきちっと使える、万能の挨拶語がない」とし、「お疲れ様です」が広がったのは他に適当なあいさつが無かったためだとしている。

   双方を分ける明確な基準は今もなく、その使い方は各自の認識に委ねられている。そのためか、前出のビジネスマナーとは逆の立場を示す有名人も。

   15年7月26日放送のトーク番組「ヨルタモリ」(フジテレビ系)では司会のタモリさんが「子役が誰彼かまわず『お疲れさまです』といって回るのはおかしい」「『お疲れさま』は元来、目上の者が目下の者にいう言葉」などと語り、民放連は子役に「お疲れさま」と言わせないよう申し入れるべき、などと提言して波紋を呼んだ。

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