「江川、ピーマン、北の湖」
興味深いのは亡くなった後、メディアが伝える北の湖の実像である。一言でいえば「素晴らしい方」と報じた。現役時代のイメージと違うので驚いたファンも多かったことだろうと思う。
「憎らしいほどの強さ」
そう呼ばれた。怖い表情、負けた相手に手を差し伸べない――など、厳しさが強調された記憶がある。自ら「敵役」と認めていたようで、嫌いなものの例えにされた。
「江川、ピーマン、北の湖」
江川(卓)とは巨人の投手で、野球協約を破ってプロ入りしたとして世間からたたかれた。好き嫌いの多いピーマンと並べられたのだった。
同じ横綱の大鵬は「巨人、大鵬、卵焼き」といわれ、強さ、人気の象徴だった。それとは真逆の扱いだった。
亡くなって分かった「記憶の良さ」に注目した。ベテラン記者によると、自分の取り組みはすべて覚えていたそうである。これで思い出すのは通算868本塁打を放った王貞治。彼も打ったホームランはすべて説明できた。
大相撲関係者は今後の角界を心配する。それは北の湖理事長の政策が成功していたからで、後継理事長の重責は計り知れない。大麻問題、八百長問題、本場所中止などを乗り越え、人気復活を果たしたことは記憶に新しい。最多優勝の白鵬に苦言を伝えたのは、角界に対して「全力で取り組め」との遺言でもある。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)