寿司、ラーメンと並び、日本人の大好きな3大国民食であるカレー。「ボケたくなければカレーを食べればいい」のなら、こんなに嬉しいことはないのだが......ホントだろうか。
喜んでほしい。ホントのようなのだ。理由を説明する前に、「カレーのパワー発見」にいたる興味深い物語を紹介したい。医療専門家の間では、インド人にアルツハイマー病が少ないことは周知の事実だったが、平均寿命が短いため発症するまで長生きする人が少ないからと思われてきた。ところが北インドの、ある不思議な村が注目を集める。バラブガール村だ。長寿の人が多い地域だが、アルツハイマー病になる人がほとんどいないのだ。
カレー効果絶大!インド人は米国人の4分の1以下の発症率
この謎に迫ろうと、米ピッツバーグ大学の研究チームが村に入り、55歳以上の高齢者約5000人を調査した。70代の人々の発症率を調べると、米国のある地域の70代と比較して4分の1以下だった。病気を起こす遺伝子に違いがあるのではと調べたが、米国人と全く同じだった。結局、7年間調査を続けたが、原因を特定できず、研究チームは「野菜中心の食生活、家族の深い絆、ストレスのない社会。それらが幸せな体、幸せな心、そして幸せな脳につながり、アルツハイマー病から守っている」と曖昧なまま結論づけた。
この研究は、認知症予防医学に大きな影響を与えたが、科学者たちの間に別の仮説を生み出した。「何か特定の食べ物に秘密があるはずだ。米国人が食べなくてインド人が毎日摂る物といえば、カレーだ!」というわけだ。各国でカレーの成分の研究が進んだ。そして2004年、金沢大学の山田正仁教授の研究チームが、カレーに使う黄色いスパイス「ターメリック」(日本名ウコン)にアルツハイマー病の予防効果があることを突きとめた。
ここで、アルツハイマー病のメカニズムを説明しよう。アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドベータという物質が蓄積されると発症する。アミロイドベータは集まって塊をつくる。これが老人斑だ。老人斑は脳内にシミのように点々と増えていき、周囲の脳神経細胞を破壊する。その結果、脳全体が委縮してしまうのがアルツハイマー病である。
山田教授らは、ターメリックの中に含まれているクルクミンというポリフェノールの一種に着目した。アルツハイマー病にしたマウスにクルクミンを投与すると、アミロイドベータが老人斑をつくるのを阻止するばかりか、すでに塊となった老人斑まで分解する作用があることがわかった。つまり、アルツハイマー病の予防と改善を果たす効果があるのだ。ただし、2015年7月現在、まだマウスを使った実験段階で、人間には立証されていない。