阿藤快さんが突然死した大動脈瘤破裂ってどんな病気?

   人間味のある名脇役で、グルメ・旅番組のリポーターとしても活躍していた阿藤快さん(享年69)が2015年11月16日、自宅のベッドの上で亡くなっているのを訪れた事務所のスタッフが見つけた。死因は「大動脈破裂胸腔内出血」と診断された。スタッフの話によると、阿藤さんは、死亡の週間ほど前から背中の痛みを訴え、湿布を貼ったり、マッサージを受けたりしていた。これが予兆だったのか。「大動脈破裂胸腔内出血」とはいったいどんな病気なのか。

   日本血管外科学会のサイトによると、大動脈は、心臓から胸部や腹部にいたる、体の中心を貫く最も太い血管で、全身を走る血管のおおもとだ。直径は胸部で3センチ、腹部で2センチもある。動脈硬化が進み、血管が弾力を失い壁にコレステロールや老廃物がたまると、血管が瘤(こぶ)状に膨らむ。瘤が直径5センチ以上になると、血流をふさぎ、血管が破裂する。腹腔内に大出血し、ショックで意識を失い、そのまま死にいたることも多い。

  • 出血後の手術は助かる率が低くなる
    出血後の手術は助かる率が低くなる
  • 出血後の手術は助かる率が低くなる

自覚症状はなく、出血すると杭を打たれる激痛が

   これが「大動脈瘤破裂」だ。50~70歳代が発症のピークで、平均年齢は65歳前後。圧倒的に男性がなりやすく、男女比は6~8:1だ。大動脈瘤破裂と似た病気に「大動脈瘤解離」がある。こちらは血管の壁が一気に破裂するのではなく、3層重なっている血管の壁が1層ずつはがれ(解離)、壁が裂けて大出血する。大動脈瘤破裂と違い、30~40代でも発症する人が多い。

   どちらも、大動脈瘤が少しずつ大きくなるので、出血するまで痛みなどの自覚症状がない。出血すると、胸や背中に杭を打ち込まれたような激痛が走る。阿藤快さんが背中の痛みを訴えた時は、すでに出血していたのか。

   大動脈瘤破裂・解離で命を落とした著名人は多い。歌手・大瀧詠一さん(享年65)、コメディアン・南伸介さん(享年52)、俳優・米倉斉加年さん(享年81)、漫画家・畑中純さん(享年62)、映画解説者・淀川長治さん(享年89)......など。

死の1年半前の前兆を書き残した司馬遼太郎さん

   作家・司馬遼太郎さんは1996年2月、歯を磨いている時に突然倒れた。腹部の大動脈瘤破裂だった。享年72。医師嫌いだった司馬さんは、専門病院にかからなかったが、日記や手紙などで体の衰えを書き残しており、専門医の間で、大動脈瘤破裂の前兆と進行について知る貴重なデータとなっている。

   それによると、亡くなる10か月前「去年の夏ごろ(注:亡くなる1年半前)から左の坐骨神経痛。......1週間は歩行もできずに苦しんでいた」。同8か月前「右足が重い、と感ずることが10日ほどつづき、レグウォーマーで足を暖めた」。同2か月前、周囲の人に顔色が白く見えるほど貧血が進む。同1か月前、腰痛で治療。同半月前、風呂場で貧血。同22日前から発熱......。

   司馬さんの記録を分析した専門医はサイトの中で、「前兆は亡くなる1年半前からあった。坐骨神経痛や腰痛は大動脈瘤が大きくなって背骨や足にいく神経を圧迫したために起きた症状と考えられる。......医師の診断を受けていれば」と残念がる。

成功率3%「奇跡の大生還」を果たした石原裕次郎さん

   一方、命を取りとめたのが俳優の石原裕次郎さんだ。1981年4月、テレビドラマ「西部警察」ロケ中に背中と胸に激痛を訴えて、慶応義塾大学病院に緊急入院した。腹腔内に大出血しており、当時「成功率3%」という大手術の末、無事回復した。46歳だった。見舞客はのべ1万2千人、千羽鶴1000束。石原さんの車に励ましのメッセージを書いた人もいた。「奇跡の大生還」と騒がれ、のちに裕次郎さんが肝臓がんで亡くなった時、親友・勝新太郎さんが「生きていても死んでいる奴が多い中、死んで生き返った奴がいる」と弔辞を送った。

   日本血管外科学会のサイトによると、大動脈瘤破裂・解離は出血前に発見して手術をすれば、95~98%の確率で助かる。原因の90%以上は高血圧と動脈硬化なので、予防には普段からマメに健康診断を受けて、血圧、血糖値、コレステロール値をきちんと管理することが大切だ。次の6項目に該当する人はリスクが高い。(1)高血圧(2)過去に動脈硬化の症状(3)男性(4)60歳以上(5)家族に高血圧・動脈硬化の人がいる(6)喫煙者。

   思いあたる人は、あたりまえのことだが、「バランスの取れた食事と運動」にこころがけよう。

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