度重なる点検の不備などトラブル続きの高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)について、原子力規制委員会は2015年11月13日、現在の日本原子力研究開発機構について「適格性に重大な懸念がある」として、これに代わる新たな実施主体を示すよう、監督する馳浩文部科学相に勧告した。
規制委は、勧告に対する結論を半年後をめどに示すよう求め、それができない場合は、もんじゅの在り方も抜本的に見直すとして、廃炉も視野に入れている。期限を切っての「最後通牒」といえ、もんじゅは存廃の瀬戸際に立たされている。
組織替え繰り返し、度重なるミス
今回の勧告は、原子力施設の安全が確保されない場合、他省庁に改善を求めることができるという原子力規制委員会設置法に基づく措置。前身の旧原子力安全・保安院にはこうした勧告権はなく、2012年9月に発足した規制委として初の行使となる。
もんじゅは1995年12月にナトリウム漏れ事故を起こし、1997年9月に国が1年間の運転停止を命令。運営主体は、1998年に動力炉・核燃料開発事業団を核燃料サイクル開発機構に改組、さらに2005年10月の組織再編で原子力機構になった。2010年5月に14年ぶりに試験運転を再開したが、同8月、炉内に装置を落下させる事故で再び運転停止した。さらに2012年11月に、機器全体の2割に当たる約1万件で点検漏れが発覚。規制委は2013年5月、原子炉等規制法に基づく運転禁止命令を出し、原子力機構に管理体制の再構築を求めたが、その後も新たな点検漏れや機器の安全重要度分類のミスなどの不備が次々と発覚。原子力機構はこの間、理事長が2人も交代し、昨年10月には組織体制を見直したが、改善されなかった。
国内政策と海外視線で二重の縛り
規制委が今回、「伝家の宝刀」(文科省筋)を抜いたのは、「もんじゅは同じような問題をナトリウム漏れ事故以降、20年間繰り返してきた」(田中俊一委員長)からで、いわば「愛想を尽かした」ということだ。
民間ではとっくに倒産しているような組織が、なぜいつまでも生きながらえてきたのか。それは、もんじゅが、国策である核燃料サイクルに不可欠な存在と位置付けられているから。
資源が少ない日本は、原発の使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出して再び核燃料に使う核燃料サイクルを、エネルギー政策の根幹に位置づけている。中でも高速増殖炉は、発電しながら使った以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」で、もんじゅはその実用化に欠かせない中核施設。このため、東京電力福島第1原発事故後も、もんじゅ推進という国の方針に変化はなく、逆に政府が2014年4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、高レベル放射性廃棄物など「核のごみ」を減らす新技術の研究開発をもんじゅの目的に追加した。「これまで1兆円以上投じ、今も年間200億円の維持費がかかりながら、ほとんど稼働実績がないもんじゅの延命を図ったもの」(全国紙論説委員)だ。
一方、国際的に、もんじゅの看板を下ろせない事情があるのも事実。高速増殖炉の実用化が絶望的になれば、プルトニウムの使い道は、通常の原発の核燃料として使うプルサーマル原発だけになるが、福島第1原発事故前でも実施できたのは4基のみ。日本はすでに、核兵器数千発分に相当する47トン以上のプルトニウムを保有しており、もんじゅなどでプルトニウムを利用することを理由に、その保有を国際的に容認されている。もんじゅの廃炉などで、その前提が崩れれば、「日本も核兵器に転用か」といった国際的疑念が高まりかねない。
使われない燃料運搬船に年12億円
動かないもんじゅを抱える原子力機構は、予算の面でも、突っ込みどころは満載。11月11日には国の予算の無駄を外部有識者らが点検する「行政事業レビュー」で原子力機構の無駄遣いが取り上げられた。使用済み燃料の専用運搬船がほとんど使われていないのに年間12億円の維持費がかかっていることなどが追求された。ただし、同レビューは「核燃料サイクル」という国策には直接モノ言う場ではない。
規制委の勧告を受け、文科省は新しい運営主体として、メーカーや電力会社、海外企業も排除せずに「白紙で検討する」ことになる。ただ、原発の再稼働に四苦八苦の電力各社などが、使える見通しが立たないもんじゅの運営を引き受ける可能性はまずない。原子力機構職員を別組織に移すこともあり得るが、「看板の掛け替え」には規制委は厳しい姿勢で臨む。
「計画通り核燃料サイクルは推進していく」(林幹雄経済産業相、11月6日の閣議後会見)との立場を崩さない国にとって、もんじゅ切り捨ての選択肢はなく、袋小路に陥っている。