まさに対照的な中間決算だった。ソニーと東芝である。片や復活の狼煙(のろし)をあげるソニーに対し、赤字転落の東芝。その立場の違いは、東芝のリストラ策の一環である事業売却にソニーが応じるという事態をも生んでいる。
かつては中韓勢の攻勢に苦しむ日本メーカーの中にあって、先進的な構造改革で「テレビは黒字」としていた東芝が、ソニーを仰ぎ見る立場に陥った。
株式時価総額、大手電機6社で最大に
ソニーが2015年10月29日に発表した2015年9月中間連結決算(米国会計基準)は、最終損益が1159億円の黒字と、前年同期の1091億円の赤字から一気に転換した。中間決算として最終黒字を実現したのは5年ぶりのことというから、この間のソニーの苦闘を端的に示す数字といえる。乱高下する液晶の需給にいまだに振り回されているシャープを除き、大手電機メーカー6社の中で構造改革のシンガリと言われ続けてきたソニーだが、復活への産みの苦しみの成果がようやく目に見える形になったと言える。
2016年3月期の通期決算についても、3年ぶりの最終黒字1400億円(前期は1259億円の赤字)とする従来予想を据え置き、株式市場では「より慎重に目配りしている結果で、十分達成可能ではないか」(大手証券)と見られている。
市場の評価は株価に現れている。11月9日の終値は3448円。全体の動きに合わせるような格好で、5月19日の年初来高値(3970円)には幾分及ばないが、過去10年でどん底だった2012年11月15日の772円から大幅に上昇している。
大手電機6社の中で、時価総額はソニーが堂々のトップに位置する。今回の中間決算でソニーの最終利益の水準は大手6社で最高で、それが時価総額にも反映している。11月9日現在、ソニーの時価総額は4兆3900億円で、2位の日立製作所3兆5260億円、3位のパナソニックの3兆5000億円に大差をつける。以下、三菱電機2兆8400億円▽東芝1兆3140億円▽富士通1兆2500億円▽NEC1兆160億円――といった具合。ソニー株に対する評価は、1年前の9月に上場以来初となる無配を発表し、株価が急落した時点から隔世の感がある。
足手まといの「エレキ」が牽引役
「ソニー復活」と株式市場が判断した根拠は、これまで足を引っ張ってきた、ソニー社内で「エレキ」と呼ばれる電機分野の収益改善だ。その中で最有望株は、従来から競争力があった画像センサーなどのデバイス事業で、部門営業利益は前年同期より6割近く増えた。ゲーム事業の中核「プレイステーション4(PS4)」は、任天堂の苦境とは対照的に好調で、2016年3月期の販売計画を1750万台と、従来予想から100万台増やした。スマホ、テレビ、デジカメもそれぞれ収益が改善した。
エレキの復活が注目されるなか、ソニーらしい「とがった」を製品開発が目に見え始めたことも株式市場を安心させている。CDより高音質な「ハイレゾ」対応のウォークマンや、高精細画質の4Kテレビなどがその筆頭だろう。また、無人飛行機「ドローン」事業の新会社「エアロセンス」の設立や、映像を使ったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の開始などでも先手を打つ。このSNSは、スマホを活用した新しい映像コミュニケーションとして、来年度に100万人の利用者獲得を目指している。
ソニーの陰で、東芝は冴えない。不正会計問題に注目が集まるが、稼ぐ力自体が劣化している。11月7日に発表した2015年9月中間連結決算は営業損益が904億円の赤字となり、前年同期の1378億円の黒字から大幅に悪化。収益が低迷するPOS(販売時点情報管理)システム事業の資産評価を見直す減損処理で696億円の損失を計上したほか、主力の半導体も苦戦した。
こうしたことから、東芝はスマホなどに搭載する画像半導体の生産設備をソニーに売却、1000人以上がソニーに移籍する見込みだ。構造改革が一巡したソニーが東芝に手をさしのべる構図だ。かつて東芝は2008年度に日本勢の中で唯一、テレビ事業を黒字化するなど、構造改革の先駆者として高い評価を得た時期もあったが、それも、今や遠い昔のことになった。