財務省が2015年の年末を控え、消費や賃金などにかかわる経済統計の調査方法の見直しをにわかに提案している。調査対象者が少ないことや階層の偏り、数字のブレの大きさなど、従来から指摘されていたのは確かで、統計の精度を高めて経済の実態をより正確につかみ、経済政策運営に生かす、という点では正論だ。
ただ、予算編成や2017年4月の消費増税を控え、「景気の実態は指標ほど悪くない」とアピールする狙いではとささやかれる。さらに、安倍晋三政権の新たな看板政策として登場した「国内総生産(GDP)600兆円」達成へ向けた数字の底上げ手段ではないか、と勘繰る向きもある。
「家計消費」は高齢者の家計簿頼り
「具体的な改善策を早急に検討してほしい」。麻生太郎財務相は2015年10月16日の経済財政諮問会議で、「家計調査」などをやり玉に挙げた。
家計調査は全国の約8000世帯に家計簿をつけてもらい、何をどれだけ購入したかを調べる。GDPの約6割を占める個人消費の推計に使われる重要なデータだが、2014年4月の消費増税後は低空飛行が続き、今年は5月と8月だけ前年同月比プラスで、あとはマイナス続きだ。
麻生財務相は、百貨店やスーパーなどの販売側の統計である経済産業省の「商業動態統計」の小売業販売額が堅調なのと比べ「異なった動きをしている」と指摘。家計調査の対象が高齢者に偏っており、「高齢者の消費動向が色濃く反映されている」と問題視した。
さらに、賃金の動向を示す厚生労働省の「毎月勤労統計(毎勤)」や、総務省の「消費者物価指数(CPI)」にもかみついた。毎勤は調査対象企業の入れ替えに伴い、2014年の現金給与総額が前年比0.8%増から0.4%増へ大幅に下方修正されている。たまたま、給与を増やしていない企業が調査対象に多く入ったためとされるが、安倍政権がアベノミクスの成果として誇っている賃上げの広がりに疑問符がつく結果となり、麻生財務相は「入れ替え時に変動があることがよく指摘されている」と強調。CPIについても「インターネット通販がものすごい勢いで増えているが、統計に入っていない」と批判した。
これらの統計が万全でないのは間違いない。「家計調査で家計簿を細かく付けられるのは高齢者や専業主婦に限られてしまう。共働き世帯などの消費の状況が十分反映されているとは言えない」(経済官庁幹部は)というのは、霞が関では"常識"とされる。