国をあげて働く女性の活躍やダイバーシティの推進を後押しするなか、大手化粧品メーカーの資生堂が子育て中の女性社員にも、他の社員と平等なシフトやノルマを与える「戦力化」に舵をきった。
多くの美容部員を抱えて、出産後の育児休暇や勤務時間の短縮などの女性の就労環境をいち早く整備し、「働く女性にやさしい」企業の代表格とされた資生堂の方針転換だけに、大きな波紋が広がっている。
子育て勤務でも戦力、土日出番や遅番も
美容部員の「働き方改革」に、資生堂が踏み切ったのは2014年4月。その前年から、同社人事部が子育て中の美容部員にDVDを配布。「何となく(育休や短時間勤務)を取るのが当たり前」と思ったり、「育休を取る」という権利だけ主張したりといった、「甘えをなくそう」と呼びかけた。
育休後の育児のための短時間勤務で働く美容部員も、一般の美容部員と同様に、公平に土日勤務や遅番をこなしてほしいと伝え、ひと月の土日8日のうち2日は勤務すること、また遅番10日を基本とするシフト勤務や、フルタイムの場合と同じ1日18人の接客を営業ノルマとして課した。ただ、資生堂は「接客はノルマではなく、目標」という。
資生堂は「改革」を実現するため、夫や家族の協力は得られるかなどを聞きながらシフトを決め、家庭などに協力者がいない場合はベビーシッターの補助を出したり、地域の子育てサービスを活用したりするようアドバイスして進めている。
現在、短時間勤務を利用している美容部員は1万人のうち、約1100人。美容部員の勤務体系は、10時から18時45分まで働く「早番」と、11時15分から20時まで働く「遅番」の2とおり。「短時間勤務制度」は早番の終わり時間を最大2時間短縮できる。
改革のきっかけについて、資生堂ジャパン営業統括部の新岡浩三営業部長は2015年11月9日に放送されたNHKの「おはよう日本」の「資生堂ショック」特集で、「過去の習慣的に育児時間(短時間勤務)取得者は早番の暗黙のルールがあり、夕方の忙しい時間帯に1人足りないということが起っていた。そういう時間にいないことが(販売の)機会喪失につながっていたのではないか、と悩んでいた」と説明した。
一方、販売の現場では、子育てをしていない美容部員に土日勤務や遅番の負担が集中して、「不公平だ」「プライベートの時間がない」などの声が続出するようになった。それにより、制度を見直したという。
加えて、美容部員に来店客が最も多い時間帯で経験を積ませることで、本人のキャリアアップにつなげてもらう狙いもある。人手不足も背景にあるとみられるが、「戦力」とすべき人材へと美容部員の役割が変わりつつあるというわけだ。