NHKの「クローズアップ現代」で放送された「出家詐欺」をめぐる報道が「やらせ」だったのではないかと指摘されている問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理委員会が2015年11月6日に出した意見書の波紋が広がっている。
意見書では番組については「重大な放送倫理違反があった」とする一方で、異例の政府・与党への批判を展開している。高市早苗総務相がNHKを厳重注意したり、自民党がNHK幹部を呼んで説明を求めたりしたことを問題視する内容だが、政府・与党はBPOに反論している。メディアの論調も総じて政府・与党に批判的だが、一部にはNHK自身の対応や、BPOが「やらせ」を認定できなかったことが今回の事態を招いたとする主張もある。
報告書28ページ中2ページが政権批判
NHKはこの問題で、外部の委員を交えて設置した調査委員会が、2015年4月28日に最終報告書を発表した。報告書では、番組に放送ガイドラインを逸脱する「過剰な演出」や事実関係の誤りがあったと認定し、再発防止策も盛り込まれた。高市早苗総務相は同日中に、放送法の「報道は事実をまげないですること」(第4条第1項第3号)といった規定に抵触しているとして厳重注意するとともに、「再発防止に向けた体制を早期に確立されることを強く要請する」などとする行政指導文書を出した。
自民党も5月21日、情報通信戦略調査会(会長=川崎二郎・元厚生労働相)の役員会にNHKの堂元光副会長を呼んで説明を受けた。堂元氏は報告書の内容に沿って説明し、出席した議員からは「恥ずかしくないのか」などと非難する声があがったという。
一連の経緯について、BPOは11月6日に公表した意見書の中で、番組については「重大な放送倫理違反があった」と指摘した。異例だったのが、本文だけで28ページある意見書のうち、約2ページを政権批判にあてたことだ。高市総務相の行政指導については、「自律」を侵害すると非難した。
「放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する『自律』を侵害する行為そのものとも言えよう」
自民党がNHKに説明を求めたことについては、放送法の第3条に「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定されていることを理由に、
「ここにいう『法律に定める権限』が自民党にないことは自明であり、自民党が、放送局を呼び説明を求める根拠として放送法の規定をあげていることは、法の解釈を誤ったものと言うほかない。今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」
とした。