「ああ、いやになっちゃう。どうしてイマドキ、駅の公衆トイレにこんなものが残っているの」と、和式トイレはガラガラなのに洋式トイレに並んでいるアナタ。和式トイレを侮ってはいけませんヨ。女性の最大のお悩み「便秘」に思わぬ効果があるのをご存知ですか。
その威力たるや、「世界遺産にしたら」という声もあるほどです。
ドイツの美人科学者が評価した「理想の姿勢」
和式トイレのすごい健康効果は、日本よりむしろ欧米の方で評価が高い。2015年3月、ドイツの微生物学者ジュリア・エンダースさんが『すてきな腸』(邦訳『おしゃべりな腸』)という本を出版、「わたしたちはみんな間違ったウンチの仕方をしている。(和式トイレのような)しゃがみこんだ姿勢での排便が健康には理想的」という研究成果を発表、欧米に衝撃を与えた。当時、彼女は25歳。美人で魅力的ということもあり、本は32週連続トップのベストセラーになった。
エンダースさんが主張する和式トイレの素晴らしさとはこうだ。まず、排便のメカニズムをおさらいしよう。便は普段、腸の末端にある結腸部分に溜まっている。排便の時には結腸→直腸→肛門へと移動するが、直腸から肛門へ移動する部分は、恥骨直腸筋が直腸を引っ張って、ある一定の角度を持たせており、便が簡単に肛門へ移動できないようになっている。ホースに例えると、手の力(恥骨直腸筋の引っ張る力)でホースを折り曲げて、水を通りにくくするようなもの。でないと、ちょっと体を動かしただけで、便が漏れてしまう。いわば、普段は恥骨直腸筋が蓋(ふた)を閉じる役目を果たしているのだ。
楽そうでフン張り続けていた洋式トイレ
ところが、洋式トイレで座っている状態だと、恥骨直腸筋が緩まず、腸が曲がったホースのままの状態になっている。このため、排便するのに余分に気張らなくてはならず、腸や肛門に大きな負担がかかってしまう。つまり、洋式トイレの場合、いつも腸の蓋が半開きのまま、わたしたちはフン張っていたわけだ。これが、和式トイレのしゃがんだ状態になると、恥骨直腸筋が緩んでホースが真っ直ぐの状態になり、排便がスムーズに、かつ徹底的にできるのだ。
エンダースさんは、しゃがむトイレを使用する約12億人のアジア人に痔(じ)や憩室症などの腸疾患を患う人が非常に少ないことに着目した。憩室症は腸の中に風船状の袋ができ、中に便などが溜まり、炎症を起こす病気である。欧米人に多い病気で、米国人は60歳以上になると、2人に1人は罹(かか)るといわれる。日本人ではかつて5は%ほどしかみられなかったが、最近では、高齢者の2~4割近くが罹るようになった。従来は、欧米人に比べてアジア人に腸疾患が少ないのは、食生活の違いが原因といわれてきた。しかし、アジア人の食生活は様々であり、エンダースさんは、しゃがむトイレの無理のない姿勢が便秘を防ぐなど腸や消化器官、骨盤への負担をやわらげてきたからだと分析したのだ。
大相撲がモンゴル勢に席巻された理由も...
エンダースさん以前にも、和式トイレが体にいいことを検証した専門家がいる。2003年にイスラエルの医学者ドブ・シキロフ博士は、こんな実験をした。17~66歳の健康な男女28人に、洋式トイレで座る方法と和式トイレのようにしゃがむ方法での排便にかかった時間と、必要な労力を調べた。その結果、和式トイレのポジションの方が、排便時間が短く、かつ簡単だった。
また、英国ロンドンのロイヤルフリー病院では、消化器担当のチャールズ・マレイ医師の提案で、患者たちに「和洋折衷トイレ」の使用を推奨している。これは洋式トイレの前に高さ15センチほどの台を置き、その上に足を乗せて前かがみに座って用を足すというもの。すると、和式トイレのしゃがんだ姿勢に近くなり、スムーズに排便できるようになったという。
和式トイレのしゃがむ姿勢は「スワットポジション」と呼ばれ、エクササイズの基本だ。スワットポジションの効用の1つとしてアキレス腱が鍛えられることもあり、以前から日本人は欧米人に比べて圧倒的にアキレス腱断絶のケガが少ないといわれてきた。「大相撲の力士は、立ち合いで瞬発力が要求され、あれほどの体重でぶつかり合っているのに、アキレス腱を切ったという話はほとんど聞かない。それは、前かがみになる蹲踞(そんきょ)の姿勢で稽古するからだ。しかし、近年、日本人力士が優勝できなくなったのは、下半身の筋肉を使わない洋式トイレの普及が原因ではないか」と指摘する専門家もいる。
便秘に効くしゃがむ姿勢、ヨガでは有名な安産のキメポーズ
実はこの和式トイレの「ウンコ座り」の姿勢、ヨガの世界では「マラーサナ(花輪のポーズ)」として有名だ。特に、股関節をやわらかくして内股を鍛えて、お産力がアップするため、「マタニティーヨガ」の代表的なポーズの1つになっている。赤ちゃんを正しい位置に戻す効果もあるという。このポーズを練習して安産に成功した女性のブログをのぞいてみよう。
「『いいんです!』。慈愛と自信に満ちた先生の言葉に勇気をもらい、早速マタニティ(ー)ヨガを開始......すきま時間にちょこちょこと。例えば、新聞を読む時やテレビを見る時は踵(かかと)をつけたまま爪先を外に向けしゃがみこむ「マラーサナ」......簡単に言うとウンコ座りです。
『トイレ掃除をすると安産になる』と言われるのも、床や便器を磨く時に重心を低くしゃがみこむことで、『いきみ力』が鍛えられるためだとか。そして、ウンコ座りだけあって便秘にも効果があるらしく、これをやっていたおかげか妊娠中も快便女王の座を守り通すことができたのでした」(ウェブサイト「yogabovo」に掲載された川波麗さんのコラムより、一部抜粋)。
さあ、アナタも明日から、公衆トイレに和式があったら、ありがたくしゃがんでみては。