忘年会シーズンを控え、酔った乗客が駅でトラブルに巻き込まれるケースも増えそうだ。ホームに転落する危険が増すのはもちろん、仮に転落しなかったとしても、ホーム上で車両に接触して死亡してしまうケースもある。
中でも目立つのは、気分が悪くなってホームから線路に向かって吐いているときに電車がやってくる、というパターンだ。
ホームへの転落は「ホーム中心から線路方向に向けて歩いてしまう」結果起こる
各紙の報道によると、15年11月7日22時20分ごろ、JR山陽線の明石駅(兵庫県明石市)のホームに入線しようとしていた姫路発米原行きの快速電車が医師の男性(55)に接触。運転士は「ゴン」という音を聞いて非常ブレーキをかけたが男性は頭を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。男性はホームから線路に向けて嘔吐していたという。
JR西日本は15年3月、防犯カメラの映像から転落・接触事故の原因を分析した結果を発表。それによると、酔った人が「ホーム中心から線路方向に向けて歩いてしまう」結果、転落することが多いことが分かっている。ただ、今回の明石駅のケースのように、転落に至らなくても電車に接触してしまうことも多い。実は今回のように「ホームで嘔吐」の末に事故に遭ってしまった例は、報道されているだけでも、これ以外に15年だけで2件起きている。
15年1月10日の23時20分頃には、JR武蔵野線の北府中駅(東京都府中市)のホームにいた会社員男性(当時33)が通過しようとしていた貨物列車(27両編成)と接触。頭を強く打って倒れ、病院に搬送されたが死亡が確認された。列車の運転士がホームから線路に頭を突き出して嘔吐する男性に気付いて警笛を鳴らしたが間に合わなかった。
15年7月24日の23時45分頃には、JR鹿児島本線の原田駅(福岡県筑紫野市)のホームで、男子大学生(19)が侵入してきた特急電車と接触し、意識不明の重体になった。やはり線路に向かって嘔吐していた様子で、電車が頭部付近にぶつかったとみられている。
ホームで起きた事故の62.4%は酔った客が原因
「ホーム上」での接触事故は意外に多い。国土交通省が公表している14年度の「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報」では、列車や車両で人が死傷した事故のうち、列車の衝突、脱線、火災、踏切事故を除いたものを「鉄道人身傷害事故」と呼んでいる。線路に立ち入ったり、ホーム上やホームから転落して起こる事故は、この「鉄道人身傷害事故」にあたる。
14年度に発生した人身傷害事故の件数は前年度比6.7%増の449件。これらの事故で死傷者は5.9%増の451人で、そのうち死亡者数は5.5%増の193人だった。
449件のうち最も多いのが「線路内立ち入り等での接触」で207件(46.1%)。自殺もこの中に含まれるようだ。続いて「ホーム上で接触」の170件(37.9%)、「ホームから転落して接触」の57件(12.7%)の順に多かった。ホームをめぐる事故が過半数だということが分かる。
死傷者の数を見ると、ホーム上の接触による死傷者は171人、転落後の接触による死傷者は57人。そのうち死亡したのはそれぞれ10人、24人だった。
別の国交省の統計によると、13年度にホームで起きた事故の62.4%が酔った客によるものだ。月別にみると12月、1月、4月が圧倒的に多い。やはり忘年会と新年会、新年度の歓迎会のシーズンに要注意、というわけだ。