古代エジプト・ギリシャ・中国、日本の「古事記」の時代から「元気の出る食べ物」として人々に頼りにされてきたにんにく。最近はがん予防でも脚光を浴びている。米国で国を挙げて取り組んでいる「食べ物によるがん予防運動」では、米国立がん研究所が推奨する「がん予防に効果のある食品群」(デザイナーフーズ・ピラミッド)のトップに選ばれたのだ(イラスト参照)。
「どうも、あのにおいが苦手で」というあなた。にんにくにある多くの効能・効果は、くさいにおいの成分「アリシン」に負っているのですゾ。アリシンは硫黄を含んだ揮発性の高い不安定な物質で、にんにくを刻んだり、すりおろしたりすると、すぐに様々な硫黄化合物に変化する。そのせいでにおうわけだが、これらの硫黄化合物たちが目覚ましい働きをするのだ。
あのにおいの素が「七変化」して大活躍
まず、がん予防からみていこう。硫黄化合物の1つジアリルジスルフィドががん細胞の増殖を抑えるばかりか、がん細胞を正常な細胞に変える。また、S-アリルシスティンという化合物は、体の免疫の1つでがん細胞を攻撃するNK細胞を活性化させる働きがある。多くの研究では、とくに胃がんと大腸がんに効果が期待でき、マウスの実験ではがん細胞が消滅した例もある。ただし、肺がんや乳がんには効果は薄いようだ。それに、現在は人間への実証はまだで、あくまで予防・抑制に留まり、治療できる段階ではない。
アリシンと、仲間の硫黄化合物の健康効果はほかにも以下のようにある。
(1)強力な殺菌・解毒作用。アリシンの殺菌力がどれほど凄いかというと、にんにくの精油を12万倍に薄めてもチフス菌やコレラ菌を殺すほどだ。例年死者を出す病原性大腸菌O‐157にも有効なので、食中毒が心配される生ものを食べる時は、にんにくも一緒に摂るといい。ウイルスにも効力を発揮するので、インフルエンザをはじめ多くの病気から体を守ってくれる。昔から漢方薬に使われてきたのはこのためだ。また、体内の毒素を解毒する作用があるので肝臓の働きを助けてくれる。
(2)高血圧予防・コレステロール低下・血液サラサラ効果。にんにくというと「滋養強壮」のイメージがあるので、血圧が高くなる感じがするが、逆である。にんにくに含まれるアルギニンという成分が血管を広げる作用があるため、血圧が下がる。また、ほかの硫黄化合物が、特に悪玉のLDLコレステロールの吸収を抑えるとともに、脂質の合成を阻害する。だから血液がサラサラになり、高血圧と動脈硬化を予防する効果があるのだ。
(3)ビタミンB1の吸収を助けて元気モリモリに。人間が活動できるのは、「元気促進ビタミン」といわれるビタミンB1が糖質をエネルギーに変えるから。しかし、ビタミンB1は吸収率が低く、すぐに体外に排出されるのが難点。アリシンはビタミンB1と結びついて「アリチアミン」という物質に変化し、ビタミンB1の吸収率を高めて体内に貯蔵してくれる。この性質を利用したのが、「がんばるあなたに!」で有名な栄養剤「アリナミン」だ。
(4)腸内の善玉菌を増やして便秘解消。アリシンは腸内の悪玉菌を殺して善玉菌を増やすので整腸作用がある。また、胃腸を刺激してぜん動運動を活発にするため、便秘や下痢を改善する効果がある。また、にんにくには食物繊維が豊富に含まれているので、女性にはうれしいダイエット効果も期待できる。
生にんにくより強力な黒にんにくのパワー
最近、ブームになっているのが、「黒にんにく」だ。その名のとおり実が黒く、スーパーで見かけた人も多いだろう。生にんにくを高温・高湿のもとで1か月ほど熟成発酵して作る。生にんにくに比べて殺菌力や抗酸化力が数倍高く、においも少ない。味は甘めで「フルーティー」という人が多い。見た目のグロテスクさと値段の高さに目をつむれば、健康効果は生にんにくより高いといわれる。
では、にんにくのパワーを最大限に生かすには、どう料理すればいいのだろう。料理専門家のサイトをみると、「すりおろすのが一番。次にみじん切りかスライス」という。パワーの源アリシンは、調理法によって様々な硫黄化合物に変化するので、期待する健康効果に応じて調理法を変える必要がある。詳しくは「もっと知りたい人へ」で紹介している「にんにく大辞典」のサイトを見るといい。ただ、大原則は「油に溶かすこと」。アリシンは揮発性が高く、放置すると20分ほどで空気中に逃げてしまう。にんにくをドレッシングに入れたり、炒め物に利用したりして、アリシンを油の中に閉じ込めてしまうのがコツだ。