がんの治療で手術を受けるべきかどうかをめぐって週刊誌上で激しい論戦を繰り広げた医師2人が、胆管がんにより54歳で死去した川島なお美さんのケースをめぐり、再び激論を再燃させている。川島さんは、「手術は受けるな」「抗がん剤は効かない」といった持論で知られる元慶応病院放射線科の医師・近藤誠氏のセカンドオピニオン外来を受診し、近藤氏からがんの切除手術ではなく「ラジオ波焼灼術」を提案されていた。
このことを近藤氏が月刊「文藝春秋」で明かすと、2015年3月まで東大医学部附属病院の肝胆膵外に所属していた外科医で、これまでも近藤氏を批判してきた東京オンコロジークリニックの大場大院長がブログで「診断当初はいくらでも治せるチャンスがあった」と批判。手術をしなかったことで「治るチャンスを逸してしまった」と近藤氏のアドバイスを非難している。
近藤氏「手術でメス入れるとがん細胞が急激に暴れ出す」
両氏の論争では、まず大場氏が週刊新潮の2015年7月9日号に近藤氏を批判する記事を掲載。これを受けて、週刊文春8月13・20日号で両者の直接対談が実現したが、手術にメリットがあるかどうかについては、両者が立証責任を押し付け合う形で議論は平行線だった。その後、週刊新潮9月3日号で大場氏が対談内容について近藤氏を批判し、週刊文春9月10日号では近藤氏が「反撃」していた。
新たな論争の火種になったのは、「文藝春秋」15年11月に「川島なお美さんはもっと生きられた」と題して掲載された近藤氏のインタビューだ。それによるよ、近藤氏が川島さんを診察したのは13年9月12日。川島さんは、13年8月に行ったMRI検査で肝臓に2センチほどの影が確認されたと話したという。近藤氏によると、「検査画像を見る限り転移はありませんでした」という。近藤氏は、手術は(1)「メスを入れたところにがん細胞が集まり、急激に暴れ出すことが多々ある」(2)「初発病巣を切除手術で取り除くと、潜んでいた転移巣が急速に増殖してくることが、これまでに多々ある」ため「危険」だと説明。こういった理由から、川島さんには
「万が一、転移が潜んでいたとしても、病巣にメスを入れる切除手術とは違い、肝臓に針を刺して病巣を焼く焼灼術なら、転移巣がどんどん大きくなってしまう可能性も低いでしょう」
などとアドバイスしたという。それから4か月後の14年1月、川島さんは腹腔鏡を使った切除手術を受けた。もちろん近藤氏はこの判断には否定的で、「がんが暴れ出してしまう」ことを理由に、
「川島さんが切除手術を受けなければ、余命がさらに伸びた可能性が高く、あれほど痩せることもなかったと、僕は思っています」
と述べている。
大場氏「近藤氏に振り回された結果、治るチャンスを逸した」
このインタビュー記事に対して、大場氏は10月22日付のブログで強く批判した。大場氏は川島さんを直接診察していないため、記事から読み取れる(1)MRI 検査で2センチほどの影が確認された(2)検査画像では転移の所見は認められなかった、という条件を「514 例の『肝内胆管がん』を治療した成績をふまえて提案した『ノモグラム』という予後予測解析ツール」に当てはめて分析した。それによると、近藤氏の診断を受けた時点で「手術によって3年生存率は80%以上、5年生存率は70%以上」という結果が出たといい、
「あくまでも予測ですが、診断当初はいくらでも治せるチャンスがあったと言えるでしょう」
と主張。近藤氏の診察から手術までに4か月もかかったことについても
「お仕事の関係や、主治医との折り合いが悪かったのかもしれませんが、近藤氏の意見に賛同してしまったということはなかったのでしょうか」
「事の真相は、近藤氏の意見 (オピニオン) に振り回された結果、『治るチャンスを逸してしまった』ということではないでしょうか」
などと近藤氏を非難。近藤氏が提案したラジオ波焼灼術についても、
「生存利益があるという根拠がない限り、気軽にラジオ波というオプションを提示するべきではありません」
と否定的だ。