首都圏で2016年にかけてコンサートホールや劇場の不足が集中する「2016年問題」が深刻化している。2020年開催の東京オリンピックに合わせ、「東京ビッグサイト」の改修工事も始まり、「2019年問題」も控えている。
影響を受ける芸能関係団体は、短期的な公立施設の規制緩和などを自治体などに呼びかけている。
民主党時代の「仕分け」に、大震災の耐震補強が重なる
2015年11月5日、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)など10の芸能団体が東京都内で記者会見を開いた。演じるためのコンサートホールや劇場が不足している、というもので、歌手の影山ヒロノブさんや人気バンド「サカナクション」の山口一郎さん、人間国宝の野村萬さんなども出席し、窮状を訴えた。
コンサートプロモーターズ協会の調査によれば、全国の公演数は04年が1万4323本、入場者が1718万人だったのに対し、14年は2万7581本、入場者は4261万人と、この10年でいずれも倍以上になっている。アニメ関係などが目立つという。しかし、ホールや劇場はというと、芸団協の調べによればこの10年間で首都圏だけで2万5000席が失われた。例えば東京厚生年金会館、五反田ゆうぽうと、青山劇場といった首都圏のシンボル的な施設まで無くなっている。場所が不足しているのにライブの需要は高まる一方なのだ。
どうしてホールや劇場が閉鎖されたのか。芸団協に取材してみると原因は大きく3つに分けられるという。一つは民主党政権時代の「仕分け」によって、直接エンターテインメントに関わらない省庁が施設を運営するのはおかしいという話になり、外郭団体が持つ資産を放出することになった。それが既に閉鎖している東京厚生年金会館、五反田ゆうぽうと、青山劇場などだ。
また、2011年の東日本大震災以降、耐震補強が必要になった施設で、改装費と補強費の捻出が困難と判断して運営を断念したケースがある。さらに、企業の中には自社のイメージアップとPRなどの目的で施設の運営を続けてきたが、その効果に疑問を持つようになり、儲かるような事業ではないから辞めてしまった、などということが重なったのだという。
加えて、今後は2020年の東京オリンピックに向けて、さいたまスーパーアリーナや横浜アリーナなどの大規模施設の改修工事が始まる。公演ができる場所がますます減っていくのだ。
「公立劇場、民間並みに規制緩和を」
「サカナクション」の山口さんは会見で、「関東の会場が不足すると、地方にコンサートに行けなくなる懸念もある」
などと語った。首都圏でのコンサートで利益を上げなければ移動など費用の掛かる地方での公演は難しくなるという。また、大きな会場でコンサートが出来ないということは、例えば1万人を集めようとした場合には5000人収容のホールを2回使う事になる。すると玉突きのような現象が起こり、始めから少人数を集めるコンサートはできなくなってしまう事も起こりかねない。それは山口さんのようなバンドに限った事ではなく、日本のホールは多目的ホールが多いため、バレエや演劇など他のジャンルにも影響を与えてしまう、というのだ。
それではこの窮地をどう抜ければいいのか。芸団協はこう打ち明けた。
「短期的には公立の文化施設利用の規制を緩和し、プロにも使いやすくしてほしい」
公立施設の貸し出しルールはプロに対してもアマチュアにも対しても均等だ。使用の1年前に抽選で使用できる団体を決めたり、開演後は午後10時に完全撤収を求めたりしている。しかし、大きな演劇ならば準備に2、3年かかる。コンサート等は21時過ぎまで続くことはざらで、22時の完全撤収は不可能のため、民間並みに規制が和らげられないか、と要望している。
自治体はこれをどう受け止めるのか。東京都の文化振興部に話を聞いてみたところ、都が管理する「東京芸術劇場」や「東京文化会館」は民間並みに貸し出しの規制を緩めていると語った。ただし、区市町村のものは独自の規制があり、プロが使うのは難しいのかもしれないとしたうえで、
「いずれにしても2016年問題などがあるのは事実であり、実態を調査し我々で何ができるか検討して行きたいと考えています」
と話していた。