自民党の野田聖子前総務会長が、安倍政権との距離を広げている。これまでも野田氏は、安全保障関連法について疑問を呈するなど政権への異論を口にしてきたが、2015年11月4日に出演したテレビ番組では、さらにそれが加速した。
出馬を断念した総裁選については「『諦めさせられた』という方が正確」と振り返り、「新3本の矢」のひとつには『何だこりゃ?』ですよね」とバッサリ。南沙(スプラトリー)諸島をめぐる問題は「棚上げ」論を示唆しながら、「あまりそんなにコミット(関与)することはない」などと距離を置くべきだとの持論を述べた。
引きはがし工作に推薦者が号泣、「迷惑をかけてしまったと悲しかった」
野田氏は、15年9月の自民党総裁選では無投票で安倍晋三首相が再選されるのは避けるべきだというのが持論だった。自らも出馬を模索したが、最終的には立候補に必要な20人の推薦人を集められずに断念したという経緯がある。野田氏が出馬断念を表明した9月18日朝の会見では、推薦人の人数について「奇跡的な数字をいただいた」としながら、具体的な数については、
「できれば私の中に一生とどめさせていただきたい」
と明言を避けていた。
野田氏が出演したBS日テレの「深層NEWS」では、この前言を撤回。キャスターが、
「20人集まったというのは本当のことなのか」
と念を押すと、野田氏は
「今だから本当のことを言ってもいいと思うが、集まっていた。よく『諦めた。断念した』と言われるが、私の意思で断念したのではなく、『諦めさせられた』という方が正確」
と述べ、具体的には「マックス(最大)で24人」が集まったと述べた。官邸の「引きはがし工作」で、少なくとも5人が一度は出した推薦を取り下げたことになる。野田氏は、支援を断念した人の様子を紹介する形で引きはがし工作の激しさについても振り返った。
「私自身が引きはがされたわけではないので、そのすさまじさは良くわからないが、やはり私(への支援)を一生懸命やりたいという人が号泣される場面に接してしまうと、本当に迷惑をかけてしまったなと悲しかった。申し訳なく思った」
野田氏は個別の政策についても異論を唱えた。アベノミクスの「新3本の矢」のひとつとして、子育て支援で現在は1.4程度の出生率を1.8まで回復させることを掲げている。野田氏は、この1.8という数字には
「『なんだこりゃ?』ですよね。だって意味が分からないでしょう」
と実現に否定的だ。保育園を増やして待機児童をなくしたり保育料を無料化したりするなどの「お膳立て」がないと「これは無理な数字」だというのがその理由だ。
「南沙で何かあっても、それは日本に対してのメッセージではない」
安全保障についても持論を展開した。
「南沙の問題を棚上げするくらいの活発な経済政策のやり取りとか、お互いの目先のメリットにつながるようなバイ(2国間)の交渉とかをやっていかないといけない。大人の知恵として」
などと経済交流を深めて南沙諸島の問題を「棚上げ」すべきだと主張。キャスターが
「経済の関係が深まれば中国が埋め立てをやめてくれるかというと、なかなかそうはいかないのではないか」
と疑問を投げかけると、日中間の経済関係が強化されたとしても、直接的には南沙諸島の埋め立てが止まるわけではないとの見方を示した。直前の「棚上げ」論と整合するかは微妙だが、いずれにしても日本は南沙諸島の問題とは距離を置くべきだとの考えを示した形だ。
「そこは、直接日本には関係ない。あまりそんなにコミット(関与)することはないわけで、むしろ日本ができることは、やはり貿易、人的交流、科学技術と得意分野で中国との溝を埋めていくことが一番求められていると思う」
「南沙で何かあっても、それは日本に対してのメッセージではない。日本は日本として、独自路線で対中国、対韓国の日本らしい外交をしていくということに徹するべき」
日本政府は、米艦船が中国による人工島の12カイリ内を航行したことに対して支持を表明している。野田氏はこの点でも政府に異論を唱えた形だ。
菅官房長官の発言は「ちょっと前なら、相当クビがかかってしまう」
矛先は安倍政権や安倍首相のみならず、菅義偉官房長官にも向けられた。菅氏は、9月29日放送のテレビ番組で、歌手の福山雅治さんの結婚に関連して、
「この結婚を機にママさんたちが『一緒に子どもを産みたい』という形で国家に貢献してくれればいいと思っている」
と述べたことが批判された。野田氏は、発言を、
「ちょっと前なら、相当クビがかかってしまうような発言。これを見る限り、『じゃあ、男性は国家に貢献しないんだな』ということ。とにかく、ちょっとセンスが悪い、これは。たくさん産めない事情が分かっていないのかな」
と切り捨てた。