特許庁は2015年10月末、久光製薬や味の素などがCMで使うメロディーや画面で動くロゴマークなど43件を新たな商標登録として認める、と発表した。企業のブランド戦略の多様化を支援するため、特許庁は2015年4月1日の改正商標法の施行で、従来の文字や図形に加え、音や動き、色彩などを新たに商標として認めることになった。今回の43件は登録第1号。
背景には「近年のデジタル技術の進歩や経済のボーダーレス化で企業間の国際競争が激しくなり、商品やサービスのブランド保護と活用がこれまで以上に求められている」(知的財産関係者)という事情がある。
「ヒサミツ」「アジノモト」のメロディもOK
久光製薬の「ヒ・サ・ミ・ツ」、味の素の「あじのもと」、花王の「ビオレ」、エプソン販売の「カラリオ」、第一生命保険の「だいいちせいめい」......。テレビCMなどで誰もが聞き覚えのあるメロディーだろう。これらのメロディーは、いずれも音符で表現でき、その楽譜が商標として認められた。
大正製薬の「ファイトー」「イッパーツ」、伊藤園の「おーいお茶」という音声も、商標として認められた。これらは楽譜では表せないが、特許庁は「『ファイトー』と聞こえた後に『イッパーツ』と聞こえる構成となっており、全体として約5秒の長さ」などと、ブランドとしての「音」の価値を認めた。メロディーと合わせ、これらは「音商標」と呼ばれる。
このほか、エドウインのジーンズのポケットの左上に付く赤いタブは「位置商標」、エステーの社名とヒヨコマークが動く動画は「動き商標」として登録された。いずれも、その企業や商品のブランド力を明確に表していると認められたわけだ。今回は「色」の商標登録は認められなかった。
ただ、商品やサービスが「音」と結びつけば、何でも商標と認められるわけではない。「石焼きイモの売り声や夜鳴きそばのチャルメラのように普通に用いられている音、効果音、自然音などのありふれている音、クラシック音楽や歌謡曲として認識される音などは、原則として自他商品の識別力を有しない」(特許庁)という理由からだ。
保護遅れる日本、米国では「におい」も商標に
特許庁が音や位置、動きなどの商標認定を急ぐには理由がある。実はこの分野で日本は後進国だからだ。
欧米では文字や図形など視覚で認識できる伝統的な商標以外にも、「動き」「輪郭のない色彩」「音」などが商標として保護されている。米国では「音」に限らず、「におい」のように視覚や聴覚で認識できない商標も保護されている。
韓国も既に導入済みの「動き」「位置」などに加え、2012年施行の改正商標法で「音」「におい」も保護対象とすることになった。中国でも「輪郭のない色彩」「音」を商標として保護する方向で検討している。
こうした国際的な動きの背景には近年、各国が締結する自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などの国際交渉がある。国際ビジネスの進展とともに知的財産保護が重要なテーマとなり、「音」など視覚的に認識できない商標も保護対象として強化する方向となっている。日本が大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)も、音について商標制度の導入が義務化されることになっている。
知的財産権には特許権や著作権など創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、商標権や商号など使用者の信用維持を目的とした「営業標識についての権利」がある。CMなどに使う「音」や「動き」「位置」などが商標と認められれば、企業は言語を超えた発信手段として、ブランド戦略を強化することができる。
日本での新たな商標の出願は2015年4月以降1000件余あり、「音」や「動き」などの商標登録は今後も増えるのは確実だ。