中国の人民元が2015年中にも、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に続き国際通貨基金 (IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に採用されることになった。世界の「主要通貨」に仲間入りしたことを意味する。長年の課題だった人民元の取引や中国の金融政策、金融規制を徐々に自由化してきた成果だが、なお様々な規制も残り、真の国際通貨への道は半ばだ。
SDRは、IMF加盟国に出資額に応じて割り当てられ、経済・通貨危機に直面して外貨が不足した時、SDRと引き換えに他の加盟国からドルなどの外貨を融通してもらう仕組みだ。その価値は「通貨バスケット」を構成するドル、ユーロ、英ポンド、円の日々の相場で決まる。今年は5年に1度、SDRの構成通貨を見直す年に当たり、IMFは2015年11月下旬に開く理事会で人民元の採用を決める方針だ。
既に代金決済で日本円を上回った
構成通貨は、その通貨国(地域)の「輸出額の大きさ」と「通貨が自由に取引できるかどうか」を基準に採用を判断する。中国は5年前の前回の入れ替えの際に輸出額の基準は満たしていたが、取引の自由度が不足と判定され、採用が見送られていた。
世界第2の経済大国になった中国の人民元が、通貨として国際的にそれなりの地位を占めるのは、当然のこと。具体的には、貿易などの決済や外貨準備で人民元が多く採用されるということを意味する。他方、世界の通貨ではドルが基軸通貨として国際決済、外貨準備で圧倒的な地位を占める。米国の経済政策や金融政策に世界中が大きく左右されるということだ。
米国経済の力が相対的に低下する中で、米国頼みだけでは世界経済がうまく回らなくなっている。その問題点を改めて白日の下にさらしたのが、米国発で世界経済を混乱に陥れた2008年のリーマン・ショックだった。
このころから、中国は米国の政策に自国経済が左右されることを嫌い、国際的な貿易や投資で元の利用を促してきた。その結果、貿易や対外投資の決済に使われる通貨としての比率が2015年8月に単月として初めて円を上回った。国際銀行間通信協会(SWIFT)の調べで、代金決済シェアは、人民元が2.79%と日本円の2.76%をわずかながら逆転し、ドル、ユーロ、ポンドに次ぐ「第4の国際通貨」にのし上がったのだ。
SDRへの採用はAIIBと同じ構図
SDR採用で最後まで問題になったのが為替レートや金利、資本取引をめぐる規制の多さだった。これについては、2015年8月、中国が毎朝発表する人民元レートの基準値の決定方法を、市場での前日の終値を参考にする方式に変更。この時は人民元相場切り下げが先行し、中国経済の減速を示す動きと受け止められて世界的な株安を招いたが、IMFは為替相場を市場にゆだねる方向の動きとして評価した。長年の課題だった金利の自由化も、2015年10月23日に最後まで残った預金金利の上限規制を撤廃した。すでに貸出金利の下限規制は2013年7月に撤廃。2015年5月には、預金保険制度を開始して銀行間の競争が激しくなる事態に備えており、今回の措置で制度上は完全自由化を実現した。こうした改革が、全体として国際的に評価を受け、SDR採用になった。
政治的には水面下での綱引きはあった。端的に言うと、アジアインフラ投資銀行(AIIB)と同じ構図だ。英国が主要国でいち早く参加を表明、ドイツなど欧州勢が同調し、透明性などの点から懸念を示してきた日米が置いてきぼりにされたAIIBと同様、日米は中国の規制緩和が不十分で、自由な利用が担保されるか疑問だとしてSDR採用に慎重な姿勢を示してきた。
それがはっきり変わったのが、2015年9月下旬の米中首脳会談で、オバマ米大統領は「IMFの評価基準を満たすことを条件に支持する」と表明し、態度を軟化させた。日本も麻生太郎副首相兼財務相が同10月27日の会見で、「(構成通貨の)要件が満たされる通貨が増えるのはいいことだ」と語るしかなかった。英独が支持を表明していたほか、ブラジルなど新興国が雪崩を打って賛成の意思を示しており、「日米の外堀は埋まっていた」(国際金融筋)。
いまだ変動相場制度には程遠い為替レート
ただし、中国の金融改革は、なお道半ばというのが国際的に一致した見方だ。人民元レートについても、基準値の上下一定幅以内でしか売買ができないという規制は残り、今回の改革後も、当局は徹底した為替介入で「行きすぎた変動」を容認しないなど、日米欧のような変動相場制には程遠い。中国への投資、中国からの資金引き揚げなど資金移動にはなお厳しい制限がある。預金金利についても、人民銀は従来の政策金利である基準金利を残し、「(政策の)基準としての一定の機能を発揮する」としていて、こちらも自由化の度合いは見極めが必要とされる。
世界の外貨準備に占める各国通貨のシェアは、米63.8%、ユーロ20.5%、ポンド4.7%、円3.8%で、人民元は1%程度とされる。「人民元が準備通貨や決済通貨にどの程度採用されるかは中国の通貨、金融の自由化や市場の育成など改革の進展にかかっている」(エコノミスト)。日本にとっても、同じアジア通貨として競合するだけに、円の魅力をどう高めるか、より重い課題を背負うことになる。