「2本の足は2人のお医者さん」ということわざが西洋にある。1人は心臓、もう1人は脳の「専門医」だ。足には全身の筋肉の3分の2が集まり、血液が行き来する。2本の足が元気に動いているうちは、心臓も脳も元気だということ。歩くことは一生の運動。さあ、風を受けて景色を眺めながら楽しく歩こう!
ウォーキングは一番人気が高い運動で、様々な健康効果が知られているが、最近、認知症予防にも驚くほど効果があることがわかってきた。アルツハイマー病は脳に老廃物がたまり、記憶をつかさどる海馬が委縮して発症する。海馬は健康な人でも加齢とともに小さくなる。米ワシントン大学が、高齢者を早歩きで1年間ウォーキングを続けた人と、まったくしない人に分けて調べると、何とウォーキングをした人の海馬が大きくなったという。
ダイエットにはお腹がすいた時に歩くのがコツ
東京都健康長寿医療センターでも、高齢者の「歩幅」と認知症発症の割合の関係を調べた。歩幅を「広い」「普通」「狭い」の3つのグループに分けると、「広い人」は「狭い人」に比べて、発症リスクが約3分の1に減った。特に女性の場合は差が大きく、約6分の1にまで減ったという。2つの研究でポイントになるのは運動強度だ。だらだらと歩いても効果は少ない。広い歩幅でやや息がはずむ程度に早歩きすることが、認知症予防には大事なのだ。
では、どう歩いたらいいのだろう。健康運動指導士たちのサイトを見ると、大事なのは「姿勢」「歩幅」「足の運び」の3つ。まず「姿勢」。背筋を伸ばして両手を上げて大きく深呼吸する。息を吐いて腕を下ろすとお腹が引っ込む。その姿勢をキープする。次に「歩幅」。普段歩く時より広めに。両足をそろえて立ち、片足を後ろに大きく踏み出してみる。グラグラと崩れない所でとめる。その広さが歩幅だ。三番目は「足の運び方」。腕を大きく振りながら、つま先を上げてかかとから地面に足をつく。足の裏にある空き缶を、1つ1つ踏み潰して進むイメージで歩くのがコツだ。
健康にいい速度は、いくらでも歩けそうな「楽」から、息が荒くなる「キツイ」の中間の「ややキツイ」がよい。週に最低3日、1回30~40分くらい歩きたい。ダイエットのためなら、少し汗ばむ程度にもっと長く歩くのが正解。最初の10分で体内の糖が消費され、その後は脂肪が燃焼されていくので、空腹時に歩いた方が脂肪の燃焼は早まる。
高齢者にお勧めは江戸時代の「ナンバ歩き」
途中で坂や階段があったら、ありがたく思って上ろう。とくに階段の上り下りは、平地を歩くのに比べて3倍の負荷がかかり、エネルギー消費量はジョギング並。お尻や太ももなど下半身の筋トレ・骨トレにもってこいだ。筋力は30歳をピークに、何もしないと10年ごとに5~10%ずつ衰える。40歳を過ぎたら、「坂と階段は最良のスポーツジム」と心得えて、積極的に上り下りしよう。
しかし、高齢者が頑張ってハードに歩いたら膝や腰を痛める心配がある。そこで、シニアに優しい「ナンバ歩き」を勧めているのが日本ウォーキング協会専門講師の上野敏文氏だ。上野氏のサイトによると、「ナンバ歩き」は江戸時代の人々の歩き方。重心を低くして、かかとで地面を押すようにして進むので、膝や腰に負担がかからない。腕を振らずに肩から動き、足でける動きがないので、疲れずに長時間無理なく歩ける。江戸のスーパーランナー、飛脚が1日に100キロ近く走れたのも、「ナンバ歩き」と同じ動きの「ナンバ走り」のおかげといわれている。
前頭葉がフル回転するから元気がわいてくる
ウォーキングは脳にもうれしい効果をもたらしてくれる。脳科学者の熊野宏昭・早稲田大学教授はサイトの中でこう指摘する。「私たちは意識せずに自動的に歩いているように思っているが、試しに100から順番に7ずつ引いてみると、単純な計算なのにできずに歩くのが遅くなる。脳の司令塔の前頭葉が周囲に注意を払っているからです。正しい歩き方かどうか気を配り、周りの世界に関心を持ちながら歩くと、運動と知覚に刺激されて前頭葉がフル回転します。だから、ウォーキングをすると元気がわいてくるのです」。